オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

練達の名匠2人が贈るオール・ポーランド・プログラム―2月の新日本フィル・トリフォニー定期

多様なプログラムが躍る近年のオーケストラ界にあっても、演奏会の全てをポーランド人作曲家が埋めるという催しはほとんどないと言って良いだろう。況してやそれらの音楽の紹介において、同郷の名匠が旗手となってくれるというのは実に貴重な、喜ばしい機会だ。2月の新日本フィルトリフォニー定期は、まさにその幸運な巡り合わせの実現であった。

アントニ・ヴィットは紛れもなく現代ポーランドを代表する名指揮者だ。1971年のカラヤン指揮者コンクールで第1位を獲得、それ以降国際的なキャリアを築いてきた。特に2012/13シーズンまで12年に渡り芸術監督を務めたワルシャワ・フィルとの関係は有名であり、また日本の聴衆にはナクソス・レーベルへの膨大な録音を通じても親しまれてきた。幅広いレパートリーの中から今回彼が提示したオール・ポーランド・プログラムは、通史的に見ても流れがよく美しい。同国の国民楽派を確立したモニューシュコ、不動の知名度を誇るショパンと続き、後期ロマン派的な―されど時代によって変幻自在の作風を示した―シマノフスキへ到達する。その先に続くルトスワフスキ、ペンデレツキらも手中に入れている名匠ヴィットならではの選曲だろう。

写真1_01

一曲目のモニューシュコ「パリア」序曲からヴィットの非凡な手腕が示された。袖から現れた彼は両腕を軽く開いて震わせながら早足で指揮台へ。聴衆の拍手を背に受けながら勢いよく振り出し、新日本フィルの弦が情感豊かに応えていた。なるほど、あの気迫は「すぐ始めるぞ!」ということだったのだ。
続いてのショパン「ピアノ協奏曲第1番」。あまりに有名な曲ゆえ巷に名盤も多く、なかなか唸らせられる演奏に出会うことが少ないのが実情だが―今回は素晴らしかった。冒頭の序奏から実に深く練られたフレージングに驚く。ヴァイオリンのフレーズの頂点で「聴いて!」と言わんばかりに自らの耳を指差し、懇切丁寧にオケを導いていくヴィットの円熟技であろう。随所で聴かせる甘いルバートの美しいこと!ヤブウォンスキのソロは粘らず、辛口淡麗なソロを聴かせる。特にペダリングの見事さは滅多に聴けないものではなかったか。ポーランドを代表するピアニスト・指揮者が紡ぐショパンの響きは、かつてなく新鮮で、しかし正道を往くという非凡な演奏だった。ヤブウォンスキのアンコールも軽やかで、決して重くならず快活な指の回りが絶品だ。

写真2_01

後半は編成を三管編成に拡大してのシマノフスキ「交響曲第2番」。この大曲を完全に掌握したヴィットは暗譜で指揮(モニューシュコも譜面を置いていなかった)、新日本フィルから分厚く轟々とした響きを引き出した。このオケは端整な音色が特徴的だが、指揮者によってはここまで濃い音へ変貌するのだ。弦が厚いので余裕を持って管楽器が鳴らすことができ、音楽のスケールが非常に大きい。終楽章のフーガの輝かしさは実演稀少な名曲の真価を知らしめるに十分な高水準であった。

役者が揃った、とはこのことであろう。知られざるポーランド音楽の魅力を優れた演奏で楽しめるという意味で、実に有意義な定期演奏会だった。ベルリン・フィルにペンデレツキ「ルカ受難曲」で客演するなど近年より幅広く活躍する名匠ヴィットだが、是非とも再度、再々度の客演を望みたいところだ。


【公演データ】
2017年2月25日(土)
新日本フィルハーモニー交響楽団 第569回定期演奏会
すみだトリフォニーホール 大ホール

モニューシュコ:歌劇「パリア」序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
~ソリスト・アンコール~
ショパン:ワルツ第2番Op. 34-1
ショパン:ノクターン第20番「遺作」

シマノフスキ:交響曲第2番

ピアノ:クシシュトフ・ヤブウォンスキ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:西江辰郎
指揮:アントニ・ヴィット

文:平岡 拓也 Reported by Takuya Hiraoka
写真:新日本フィルハーモニー交響楽団 Photo by New Japan Philharmonic

コメントを残す

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。