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東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第95回・プロコフィエフのカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」———知られざる作品の真価を示す上演

東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第95回・プロコフィエフのカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」———知られざる作品の真価を示す上演

1月21日に東京オペラシティコンサートホールで開催された「東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第95回」は、ロシアとソヴィエトの音楽による”物語”プログラムだった。東京交響楽団の正指揮者として長く共演を重ねる飯森範親は、8月のポポーフに続いてロシア音楽プログラムでの登場、この日は序曲なしでいきなりリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」、そして後半にはプロコフィエフのなかなか演奏されないカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」を演奏した。

まず「シェエラザード」で飯森範親は、各楽章ごとの性格付けを明確にすることでこの作品を”語りもの”として示した。第一楽章ではあまりテンポを動かさず王の威厳を印象づけ、対比として終楽章ではシェエラザードの雄弁な語りと物語が導く眠りまでの流れをしなやかに動的に描くことで大枠を作り、その中でオーケストラには存分に名技を発揮させる、それが今回の彼のコンセプトだったろう。だが第一楽章で少々演奏が硬く、その結果王の暴威を感じさせるに至らなかったように思われて、結果としてそのコンセプトは若干伝わりにくかったようにも思われた。
この大曲が一曲目では重かったか、冒頭に短い曲でも置かれるべきだったかなどと思っていたのだが、公演後に知ったところでは第一楽章でティンパニのヘッド(皮)が破れるトラブルがあったという。それを知ってしまえばむしろ、この日の演奏が乱れなかったことに感心すべきだったかもしれない。ティンパニストは使える楽器が減った中でチューニングを変更して曲に穴を開けなかった、そして要のパートのトラブルにオーケストラはそれぞれが耳をいつも以上に駆使して対応したのだから。トラブルさえなければ、と惜しむ思いもあるのだけれど、東京交響楽団の、特にも木管セクションの名技には大きく拍手を贈りたい。そしてもちろん、この曲ではソリストに近い活躍をするコンサートマスター、グレブ・ニキティンの妙技も忘れてはならない。後半の見事な統率ともども、東響のロシア・ソヴィエト音楽演奏の高いスタンダードを支える彼の存在に、いま一度感謝したい。
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後半のカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」では、一転してこの顔合わせの美点が、ノー・トラブルで存分に発揮された。オーケストラに加わった独唱・合唱も活躍し、知られざる作品の真価を示した。”スターリン時代の体制賛美作品”と片付けられてしまいがちなこの作品が持つ美しさ、激しさを曇りなく示すあたり、飯森&東響の顔合わせの美点が現れたといえるだろう。昨夏日本初演したガブリイル・ポポーフの交響曲を思い出してみよう、あの時も「作品そのものの響き」を導き出すことに成功していたのだからこの成功はある意味で予想通りと言えるかもしれない。
ある意味で自然体のアプローチにより、エイゼンシテインの映画のための音楽から編まれた劇的なカンタータが、プロコフィエフの同時期の作品、たとえば「キージェ中尉」(1934)、バレエ「ロメオとジュリエット」(1936)とは非常に近いものと感じられたのは収穫だろう(挙げた二曲とも共通するテナーサクソフォンの使用は明らかにソヴィエト帰国後のプロコフィエフの特徴だ)。プロコフィエフ独特のオーケストレーションはオーケストラに多くを要求するものだが、好調の東響は独奏にアンサンブルにと確かな演奏で見事にその魅力を示した。
…これだけの演奏をされてしまうと、東響の常連指揮者たちによるプロコフィエフ・チクルスなどを夢見てしまうのだが、それは叶わぬ夢だろうか。すでに交響曲全集を録音しているドミトリー・キタエンコを軸にしたシリーズ、素晴らしいものになると思うのだが…(もちろん、このような企画を楽しむファンが非常に少ないこともよく理解しているのだけれど。実に残念なことだ)

話を演奏会に戻そう。慣れないロシア語に奮闘し、人数少なめの編成ながら聴き手に十分届く音量でこの作品の語りを務めた東響コーラスは、いつものように素晴らしい仕事をした。アマチュアながら東響との活動を重ね、新シーズンには創立30周年を迎えて、新シーズンは開幕公演の「惑星」(4月)、ノット監督との「復活」(5月)以降続々と登場する東響コーラスにはますますの活躍を期待したい。

そして第五曲の苛烈な戦闘がまるで夢だったかのように美しい後奏で音楽が静まってから入場し、第六曲で見事な歌唱を聴かせたエレーナ・オコリシェヴァの存在感はこの作品が描くドラマを現実的な、悲劇的なものとして描くことに大きく貢献した。プロパガンダとしてここに置かれた「勝利をもたらした犠牲への配慮」を超えて、このドラマに真実味を添えた歌唱に拍手を。

そしてこの共演者たちを束ねた飯森範親にも忘れずに拍手を贈ろう。大編成でも混乱させることなくオーケストラを導いた彼の耳と、確実な作品把握あっての好演だったのだから。

東京交響楽団の次回定期演奏会は3月になる。登場する指揮者陣は1月と同じ、東京交響楽団との共演を長く重ねてきた秋山和慶(3/5 東京オペラシティシリーズ)、そして飯森範親(3/18 川崎定期)だ。その二人とともに東響は記念すべき創立70周年の2016-2017シーズンを終え、4月には71年目の、ジョナサン・ノットとの第4シーズンが始まる。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba


東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第95回
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」作品35
プロコフィエフ:カンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」作品78

2017年01月21日(土)14時
東京オペラシティコンサートホール

指揮:飯森範親
メゾ・ソプラノ:エレーナ・オコリシェヴァ
混声合唱:東響コーラス


コンサート情報(2017/18 Season)

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