オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

学生券を公演当日に1,000円で販売!ますます身近に、気軽に楽しめるシリーズ―――ミューザ川崎シンフォニーホールと東京交響楽団による「名曲全集」の新シーズンが4月16日に開幕

ミューザ川崎シンフォニーホールと東京交響楽団による名物企画、「名曲全集」の新シーズンが4月16日に開幕した…と言っても閉幕が3月末のことだから、年度の変わり目以上の意味はないかもしれない。しかし今回から、学生券を公演当日に1,000円で販売するサーヴィスも開始されてますます身近に、気軽に楽しめるシリーズとなった「名曲全集」は、打楽器も賑やかなモーツァルトの「後宮からの逃走」序曲から始まった。

(C) 藤本史昭

(C) 藤本史昭

東京交響楽団がモーツァルトを演奏するならば、そのアプローチにはいくつもの選択肢がある。スダーン時代から取り組んできたナチュラルトランペットやケトルドラムを用いた”古楽器”寄りの演奏から、いわゆるモダン楽器による”20世紀風”の演奏まで、求められれば現在の東響は相応の響きで応えてくれるだろう。その幅のある対応が可能な中で、今回登場した尾高忠明が選んだのは”ウィーン風”のアプローチ、ロータリートランペットにケトルドラム(しかしマレットはフェルト)、というもの。これはメインに置かれたシューベルトまで踏まえた判断だろう。弦楽器を客席正面から見て向かって左から第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラの順に並べた10型編成の東京交響楽団から、尾高らしく整った、滑らかなサウンドを導き出す。もちろん、トルコを舞台にしたこの作品は大量の打楽器群が用いられた賑やかなものだから、開幕を祝うかのような華やかさも十分だ(当時の”トルコ風”は、厄介で魅力的な異国情緒を表象するため、主に打楽器を用いた。いわゆる第九や、モーツァルトの有名な行進曲も同様である)。美しくしかし激しく駆け回る弦楽器、いつものように呼吸のあったアンサンブルを聴かせる木管セクションと東響の魅力を活かしつつ、どこか落ちついた雰囲気の音楽になるのはマエストロの個性だろう。

(C) 藤本史昭

(C) 藤本史昭

一転して弦楽器とハープ、ホルンによる小編成のオーケストラのために書かれた尾高尚忠のフルート協奏曲は、会場で配布されたパンフレットの榊原律子氏による解説にも”「美しい音楽が書きたい」「軽い、心地よい曲を作ろう」という思いから作曲された”とあるように、ラプソディ的でディヴェルティメント的な、音楽用語抜きでいうなら「聴いて楽しく美しい曲」だ。日本風、東洋風の響きをてらいなく用いたその音楽はもっと聴かれていいものだろう、この機会を提供してくれた高木綾子と、作曲者の子息である尾高忠明にはこの出会いを用意してくれたことに感謝したい。この音楽の性格を奔放にも思える演奏でより強める高木綾子、そしてそのフルートを端正に支える尾高と東響の好演がさらにその思いを強めてくれたことには拍手を贈るしかない。
アンコールに高木綾子が演奏したドビュッシーの「シリンクス」は、演奏が終わってしまうのを惜しむかのように、長いディミヌエンドで演奏された最後の音符が特に心に残るものだった。

(C) 藤本史昭

(C) 藤本史昭

最後に演奏されたシューベルト最後の交響曲は、彼のもっとも巨大な作品だ。14型に拡大された弦楽セクションの編成は、楽器の選択から見てもそのまま初期ブルックナーまでなら演奏できるサイズだろう。この日はブライトコプフ新版(1998)を使用しての演奏となったが、そこで奏でられたのはモーツァルト同様に、より洗練された美しさを求めるものだった。冒頭のホルンの伸びやかなファンファーレから迷いなく突き進むフィナーレまで、美しい仕上がりと疾走感を両立した演奏は魅力的なものだった。
形式を遵守し、提示のリピートまで律儀に用意したこともあって長い作品だが、その作り込みは充実したもの、シューベルトならではの旋律の美しさもさりながら、随所に凝らされた趣向が音として伝わる見事な作品だ。単純な繰り返しに聴こえる部分も、そのままの反復からオーケストレーションの微細な変化、旋律線のちょっとした変更などで聴き手を飽きさせない配慮に満ちている。ハンガリーの民族楽器、タロガトー風の旋律を担当するオーボエを軸にした木管セクションのアンサンブルが魅力的な第二楽章が、この日の尾高忠明と東響の顔合わせが導き出した最も美しい瞬間だっただろう。輝かしく駆け抜けたフィナーレは、マーラーのロンド・フィナーレにも通じる雰囲気を感じさせる、開放感ある爽快な演奏だった。

(C) 藤本史昭

(C) 藤本史昭

さて、今回は早逝した作曲家たちの作品を集めて開幕した新年度の「名曲全集」だが、5月28日(日)に開催される次回は「異国の地に思いを馳せて」として、中東への憧れを描いた作品を集めて開催される。チリ生まれの若き指揮者、ヘルムート・ライヒェル・シルヴァは果たしてどんな演奏で私たちを楽しまてくれるだろうか。新鋭の実力を引き出すことには定評のある東響との顔合わせに期待したい。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba


ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団
名曲全集第126回

2017年4月16日(日) 14:00開演
ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:尾高忠明
フルート:高木綾子
管弦楽:東京交響楽団

モーツァルト:歌劇「後宮からの逃走」序曲
尾高尚忠:フルート協奏曲 Op.30a
シューベルト:交響曲第八番 ハ長調 D.944 「グレイト」

コメントを残す

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top