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フェスタサマーミューザ2017―――プログラムを読み解く

フェスタサマーミューザ2017―――プログラムを読み解く

1703fsmk2017_pamph_p01_outさて先日ラインナップ記者発表の模様をお伝えしたフェスタサマーミューザ2017だが、今回はそのプログラムを深く見ていこう。この”夏祭り”の中心となるのは”首都圏のオーケストラが一つの会場で連日演奏する”という、イギリスの「プロムス」にも似た”オーケストラの競演”を実現する一連のコンサートだ。まずは登場する指揮者、そしてプログラミングに参加団体の個性が現れるコンサートを、いくつかの視点で読み解いてみよう。今回は”視点”として、まずホールのフランチャイズオーケストラとして三公演に登場する東京交響楽団、そしてシンフォニー・コンサートを披露する参加団体、幅広い聴衆のためエンタテインメント・プログラムを用意した参加団体、そして今回初の試みとなる特別参加三団体の順に触れていこう。


●三つの異なるプログラムで魅せる東京交響楽団

ミューザ川崎シンフォニーホールのフランチャイズオーケストラとして、東京交響楽団はオープニングとクロージングを担当するほか、新百合ヶ丘のテアトロ・ジーリオ・ショウワでの”出張サマーミューザ@しんゆり”に登場する。

まず開幕を告げるファンファーレも開演前に披露されるオープニングコンサート(7/22)には、昨年に続いてジョナサン・ノットが登場する。昨年、フェスタの直前に披露されレコーディングも好評のブルックナーの交響曲第八番の名演から、さらに一段と踏み込んだ音楽づくりを披露したノット&東響は、今回も聴き逃せない作品を並べてきた。世紀末ロマンティシズムの極致、シェーンベルクの「浄夜」と、ストラヴィンスキーの「春の祭典」を披露するのだから、衝撃的な開幕公演となることは疑いようもない。すでに充実の定期演奏会が発表されているノット&東響のシーズン4にはとんだ隠し玉が用意されていたわけである。

そして音楽祭のフィナーレ(8/11)には、ラフマニノフのピアノ協奏曲と交響曲によるロマンティックなプログラムが用意された。信頼の秋山和慶の指揮する交響曲第二番は、お祭りの終わりを美しく飾ってくれることだろう。そして若き反田恭平が、有名な第二番ではなく第三番の協奏曲を披露するのも注目だ。反田自身が「僕にとっての初めてのロシア作品はこのラフ3で、ロシアへ留学するキッカケともなった作品」と語る大切な作品で、さらなる成長を示してくれるだろう(「」内は反田恭平のTwitterより引用)。

新百合ヶ丘でのコンサート(8/6)は山下和史によるオール・チャイコフスキーが披露される。オペラからの作品、協奏曲、交響曲とそれぞれのジャンルごとに代表的な曲を並べたプログラムは、初心者も楽しめて本格的なコンサートとなるだろう。三つのコンサート、そのどれもが注目だ。


●本格的なコンサート・プログラムを披露する五団体

”オーケストラの競演”となるこのフェスタでは例年どの団体も力の入ったプログラムを披露してくれるけれど、今年はまさに競い合うように力のこもったプログラムが用意された。以下、ミューザへの登場順に紹介する。

まず東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団はバロック作品によるプログラムを披露する(7/25)。有希 マヌエラ・ヤンケをソリストに迎える「四季」も期待できるし、夏に涼やかなヘンデルを楽しむのもいい。だが注目はマーラーによるバッハの管弦楽組曲だ。モダン・オーケストラによるバロック演奏が少なくなった現在、なかなか実演では聴くことができない”秘曲”も交えて楽しくも知的なプログラムを用意した村上寿昭の才覚に、期待が高まる。

東京都交響楽団は、今シーズンで首席客演指揮者を退任するヤクブ・フルシャとスメタナの「我が祖国」を演奏する(7/26)。バンベルク交響楽団の首席指揮者に、そしてつい先日にはフィルハーモニア管弦楽団の首席客演指揮者に就任と、世界的に活躍を続ける彼の、母国を代表する名曲はミューザでどのように響くだろうか。フルシャの日本での活動の集大成となる名演を期待しよう。

東京フィルハーモニー交響楽団は、名誉音楽監督チョン・ミョンフンとベートーヴェン・プログラムを披露する(7/27)。チョン・ミョンフンは近年、その幅広いレパートリーの中から伝統的な名曲を東京フィルと集中的に演奏することで、名誉音楽監督としてオーケストラに求められるサウンドを磨き上げている。昨年のチャイコフスキーに続いて一人の作曲家の作品によるプログラムで、若き首席指揮者とはまた違う”東京フィルのベスト”を聴かせてくれることは疑いようもない。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、ミューザと新百合ヶ丘の二公演に登場する。ミューザでは、近年競演を重ねている鈴木秀美とメンデルスゾーンとハイドンによる「ロンドン」プログラムだ(8/6)。神奈川フィルが、県立音楽堂で集中的に取り組んできたハイドン作品を、休日の公演で披露してくれるのだから「ミューザでの神奈川フィル」を多くの”かなフィル”ファンが楽しめるだろう。

また、テアトロ・ジーリオ・ショウワでは昨年に続いて協奏曲を三曲取り上げる、特別のプログラムを用意してくれた(7/30)。ソリストにはヴァイオリンの岡崎慶輔、サクソフォンの上野耕平、ピアノの仲道郁代と、人気実力とも兼ねそなえた日本人演奏家たちを迎える。注目の指揮には、かつてこのオーケストラの副指揮者を務めていた伊藤翔が久しぶりの共演を果たす。昨年ニーノ・ロータ国際指揮者コンクールで優勝して飛躍が期待される伊藤翔の、サポートにとどまらない指揮にも注目したい。

日本フィルハーモニー交響楽団は、桂冠名誉指揮者・小林研一郎得意のベルリオーズをメインとしたフランス音楽プログラムで登場する(8/9)。コバケンと日本フィルのこのプログラムに特に説明はいるまい、”老舗の、自慢の逸品”を堪能する一夜となることだろう。


●ポップス・オーケストラに変貌する二団体

”日本を代表するオーケストラ”として自他共に認めるだろうふたつの団体が、フェスタサマーではポップス・オーケストラとして登場するのはなかなか面白いところだ。堂々たるシンフォニー・オーケストラがサウンドトラックやミュージカルなど、軽めの作品を演奏する時には、いつもとは違った表情が楽しめて魅力的なものだ。「クラシックには詳しくないけれど、一度はオーケストラの生演奏を聴いてみたい」、そんな人たちにこれらの公演情報が届けばいいし、クラシックファンにはおなじみのオーケストラの違う顔を楽しんでほしい。

まずNHK交響楽団が「プリンセス・オン・クラシックス」としてバレエ、ゲーム、ミュージカルなどの作品からの音楽を披露する(7/29)。幅広いジャンルの作品に対応できるマエストロとして実績ある渡邊一正の指揮のもと、ミュージカル界のスター、新妻聖子津田英佑を迎えて楽しいコンサートとなることだろう。

読売日本交響楽団渡辺俊幸を迎えて、「シネマ&ポップス」と題して贈るプログラムだ(8/1)。数多くの映画やドラマで心に残るサウンドトラックを生み出してきた腕利きの名手による作編曲の技に、いつもとは違う表情でそれに応える読響の妙技に酔いしれる。軽やかな午後のコンサートは私たちを”奏快”な気分にしてくれるはずだ。


●注目の特別参加団体

三つの特別参加団体による演奏会の中でも、まず注目されるのはワレリー・ゲルギエフによるPMFオーケストラだろう(7/31)。1989年から札幌を舞台に開催されているアウトリーチ型の音楽祭パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)で鍛えられた若者たちのオーケストラが、ゲルギエフとともにミューザ川崎シンフォニーホールに初登場するのだから。現在はメインとなるシューベルトの「ザ・グレイト」だけが発表されているプログラムだが、前半にはゲルギエフが選んだソリストたちによる協奏曲も置かれるという。例年、首都圏での公演にはかなりの重量級プログラムを持ってきてくれるPMFオーケストラなのだから、今年も期待してしまっていいのではないだろうか?

そしてオーケストラ・アンサンブル金沢が開幕早々ミューザに登場するのも見逃せない(7/23)。音楽監督の井上道義が編んだのは、首席奏者のルドヴィート・カンタ、そしてオルガンのティエリー・エスケシュを独奏者に迎え、新旧の作品を織り交ぜた興味深いプログラムだ。作曲、即興演奏でエスケシュのオルガンが活躍するこのプログラム、本拠地からのツアーで披露されて、練り上げられた状態でフェスタサマーへの登場となる。空間性をも演奏に取り込むようなこのプログラムはミューザ川崎シンフォニーホールでこそ、その魅力が最大限に示されることだろう。

そして首都圏のオーケストラのうち、新日本フィルハーモニー交響楽団は今回、久石譲の指揮によるプログラムでの特別参加となった(8/4)。「ワールド・ドリーム・オーケストラ」としてのコンサートは、近年硬軟両面の久石譲作品に取り組んできた盤石のコンビネーションによる、子どもたちから大人まで楽しめるものだ。上岡敏之音楽監督ともに変化しつつある新日本フィルハーモニー交響楽団の、もう一つの顔もぜひこの機会に楽しみたいところだ。


●オーケストラ以外にも多くの企画

ラインナップ発表会見に登場したホール・アドヴァイザーたちの、このフェスティバルのための特別の企画ももちろん見逃せない。フェスタサマーミューザの楽しみはオーケストラ公演だけではないのだ。

ジャズ・ピアニスト佐川雅弘はオルガニスト、ルドルフ・ルッツとの競演でジャズピアニストとオルガニストの異種アドリヴ競演で登場する(7/28)。この二人の共演も今回で三回目、もはやこの顔合わせも恒例のもの、と言えるだろう。”バッハの作品を演奏するので準備が大変だ”と佐山は会見で語っていたけれど、今回も丁々発止のライヴが楽しめることだろう。

小川典子は「こどもフェスタ」の目玉とも言える「イッツ・ア・ピアノワールド」(8/5)に登場。もはや恒例となった、ステージ上で子どもたちが文字どおり”直接音楽に触れる”機会として今年も楽しい時間を過ごしてくれるだろう。

オルガニスト・松居直美は出演こそないけれど、「真夏のバッハ II」で若きオルガニストのリサイタルをプロデュースする(8/5)。昨年国際バッハ・コンクールで優勝したことで話題となった冨田一樹のリサイタルは、「ぜひ弦楽器と共演したい」との希望を受けて、日本を代表する古楽演奏の名手たちによるアンサンブルを迎えてのリサイタルとなった。
このように、ホールの魅力を知り尽くしたアドヴァイザーたちによるコンサートはどれもがミューザ川崎シンフォニーホールという最高の会場を活かすものなのだ。

そしてこの音楽祭の持つアウトリーチ的な側面も見逃せない。市内にある二つの音楽大学がミューザ川崎シンフォニーホールに登場する機会としてもこのフェスタは、学生にも市民にもおなじみのものとなっている。

先に登場する洗足学園音楽大学は、恒例となりつつあるバレエとオーケストラのコラボレーションを披露する(7/30)。大学のカリキュラムで協力関係にある谷桃子牧阿佐美両バレエ団と、東京シティ・バレエ団のメンバーも出演するコンサートはフェスタの中でも特色あるものとなる。

対して、昭和音楽大学はオーケストラによる真っ向勝負、真夏のフェスタのために暑さに負けない熱いスペインづくしのプログラムを用意した(8/10)。

さらには、かわさきジュニアオーケストラの発表会8/3)、親子向けのプログラムを用意した東京ニューシティ管弦楽団8/8)が、上述した小川典子の「イッツ・ア・ピアノ・ワールド」とあわせて「こどもフェスタ2017」として開催される。

これらの有料公演に加えて、市民交流室では公募で選ばれた若手演奏家による無料コンサートも昼の時間帯に開催されるのだから、誰もがお気に入りの演奏会を、音楽を見つけられることだろう。三週間にわたって最高のホールで楽しめる、”気分奏快”で最高に熱い夏が、今年も川崎にやってくる。

出演者の公募期間は4月20日~5月10日(当日消印有効)なので、音大生及び音大卒の若き演奏家各位はぜひ、奮ってご応募されたい。若手演奏家支援事業2017「出演者募集」

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba

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