オペラ・エクスプレス

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新日本フィル10月定期・11月定期―上岡音楽監督の2公演&D. R. デイヴィスの職人芸

新日本フィル10月のジェイド・シリーズは、日本・デンマークの外交関係樹立150周年を祝した美しいプログラム。新日本フィルの上岡音楽監督は2016/2017シーズンよりコペンハーゲン・フィル首席指揮者も兼任しており、まさにこの祝賀の機会における適任者といえるだろう。

コンサートの幕開けは、デンマークを代表する大作曲家ニールセン―かつて100クローネ紙幣にも肖像が描かれていた―の序曲「ヘリオス」。静的な響きの移ろいが早くも傑出した出来を示す。グリーグ「ピアノ協奏曲」では、分厚くも煌びやかな清水和音の独奏と編成を小さくしたオケが緻密な対話を繰り広げた。中間楽章はじめ、これほど微細な叙情美を表出した演奏も珍しい。
後半のツェムリンスキー「人魚姫」は想像を超えた美演となり、その水準に驚嘆した。この曲を暗譜で鮮やかに振る上岡、ビシリと音程の揃った各声部の積み重ねで爛熟したロマンを描き出した。このコンビの幾多の演奏の中でも、両者の指向性が曲と完璧に合致した結果ではなかったか。時折挟まれるゲネラル・パウゼは、切々と紡がれる物語の語り手が呼吸を整えるような印象を与えた。

第3曲で人魚姫が水へ身投げして泡となり、悲哀の中に物語は閉じられたが、演奏会の最後には予想外なオマケが待っていた。デンマーク出身の作曲家ロンビ(ロンビー)による「シャンパン・ギャロップ」が賑やかに演奏されたのだ。なるほど、泡繋がりということか―それに、1月のウィンナ・ワルツ&ラ・ヴァルスの予告の役割にもなろう。何はともあれ、華やかかつ真摯な演奏で、有意義な祝賀演奏会となった。

カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)、上岡敏之(指揮)(C)堀田力丸

11月のルビー・シリーズも上岡監督の指揮で、才媛ブニアティシヴィリが共演。
中プロはチャイコフスキーの名作「ピアノ協奏曲第1番」。序奏部冒頭の有名なホルンを悠然と始め、懐広く独奏を迎え入れた指揮の作戦勝ちでは。ブニアティシヴィリはテンポの緩急を大胆に歩むが、卓越したピアニストでもある上岡が実に精妙に呼吸を合わせ、オケも巧く付けるので全体の構築が揺るがない。3楽章はやや弾き飛ばした感もあるが、中間楽章はじめ独奏の随所では繊細な美音も堪能できた。アンコールのセレナーデは豪放とは無縁の静かな世界だった。
順番が前後するが、前半のラフマニノフ「死の島」、後半レーガー「ベックリンによる4つの音詩」、これれはともに同じ素材の画にインスピレーションを受けた作品だ(レーガーは4曲中、第3曲が相当)。ロシアのラフマニノフ、ドイツのレーガーという2者の音楽的アプローチの違いが興味深い。共に仄暗い詩情が横溢し秀逸で、ラフマニノフ作品はお得意のグレゴリオ聖歌「怒りの日」も姿を現す。レーガー作品は劇性よりも厳粛さが勝り、また全4曲通して渋くも美しいオーケストレーションの妙、古典的構成美が印象に残る。上岡の指揮はいつもながら弱音の幅、リズムの隈取りが見事で、ヴァイオリン・クラリネット等明滅するソロ群も美しかった。

そして、このコンビのほぼ「恒例」となりつつあるアンコールは、これまでの中でも特に驚愕度の高いものだった。レーガーの終曲「バッカナール」の熱狂の余韻も冷めぬ中、静かにティンパニがロールを叩き始める。まるで、第3曲の「死の島」の陰鬱な世界に戻ったように―しかし始まったのはなんと、ワーグナー「神々の黄昏」の「ジークフリートの葬送行進曲」であった。「死」「葬送」に彩られた今回のプログラムを更に印象付けるような選曲ではないか。豪速テンポで引きずらない上岡流のワーグナーは、早く全曲を聴きたいもの。「ラインの黄金」での語り口の巧さなど、目に浮かぶようではないか。このコンビの将来に更なる期待を抱かせる粋な計らいだった。


デニス・ラッセル・デイヴィス(指揮)(C)堀田力丸

11月末・今年最後の新日本フィル定期には、バロックから現代まで膨大なレパートリーを誇るアメリカの名匠―デニス・ラッセル・デイヴィスが登場。1920年代の6人組→その1人プーランクの30年代作品→6人組に冷淡だったプロコフィエフの40年代作品という巧妙なプログラムを持ってきた。時代背景、ジャンルを違えた芸術家同士の交流など、3曲通じて見ると実に多彩なキーワードがあふれ出す。渋い(渋すぎる?)選曲ゆえか客入りは厳しかったが、実現されたことに大感謝だ。
前半の2品。ジャン・コクトーが演出と台本を担当し、振り付けにも関わったという「エッフェル塔の花嫁花婿」は、作曲家集団「フランス6人組」が唯一合作で完成させたバレエ音楽だ。とはいえ、メンバーの一人であるデュレはリハーサル4日前に計画から抜けている。劇の内容はシュルレアリスム的で、完成したばかりのエッフェル塔を舞台とする。5人による合作ということもあってか、音楽の色彩はめまぐるしく移ろう。洒脱さもあるが、同時に重々しい緊張、引きつった珍妙さを湛えており、あたかもエッフェル塔建設で大揉めに揉めた当時のパリの世相を今に伝えるようである。続くプーランク「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲」は、その名の通り管楽器を省いた編成。だがオルガンの幅広い音色は色彩の不足を感じさせず(寧ろこの効果が狙いだったのかと思える)、強靭に弦楽・ティンパニと渡り合う。サントリーホールの誇るオルガンが松居直美の手により場内を駆け回り、指揮とオーケストラも応じた。

後半はプロコフィエフ「交響曲第6番」。前半2曲は戦間期の作品だったが、こちらは第2次大戦終結直前にスケッチが開始された。一つ前の番号の「交響曲第5番」(作品番号100)と同様に、内省的な緩除楽章に続いて無窮動的な終楽章がやってくる。違いとしては、「第5番」が快活な運動性の中に終結するのに対し、「第6番」はともすれば強引と取られかねない程の、強烈な終結へ向かう点だろうか。このあたりが「ジダーノフ批判」の格好の餌食になったのかもしれない。この曲におけるD. R. デイヴィスの指揮は、リズムを特段厳格に浮き立たせるでもなく、しかし旋律で単色に押しつぶすのでもない。強いて言えば、晦渋な楽曲を柔らかく解き明かすような、不思議なフワトロ感覚を有した。この感覚は、この作曲家の作品を聴く時には通常殆ど得られないような、奇妙な聴後感であった。オーケストラの管打の充実はなかなかで、2楽章の酷なホルンの高音も手堅く決まった。オケの水準向上を強く感じたわけだが、機能美と呼ぶにはあと一歩であろうか。
終演後には、今回で退団する小島光(パーカッション)に指揮者から花束が渡される温かなセレモニーもあった。

文:平岡 拓也 Reported by Takuya Hiraoka


新日本フィルハーモニー交響楽団 第579回定期演奏会
2017年10月14日(土)
サントリーホール 大ホール

ニールセン:序曲「ヘリオス」
グリーグ:ピアノ協奏曲

ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」
~アンコール~
ロンビ:シャンパン・ギャロップ

指揮:上岡敏之
ピアノ:清水和音
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙

新日本フィルハーモニー交響楽団 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉#10
2017年11月10日(金)
すみだトリフォニーホール 大ホール

ラフマニノフ:交響詩「死の島」
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
~ソリスト・アンコール~
シューベルト(リスト編曲):セレナーデ

レーガー:ベックリンによる4つの音詩
~アンコール~
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」より ジークフリートの葬送行進曲

指揮:上岡敏之
ピアノ:カティア・ブニアティシヴィリ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙

新日本フィルハーモニー交響楽団 第581回定期演奏会
2017年11月29日(水)
サントリーホール 大ホール

フランス6人組:バレエ音楽「エッフェル塔の花嫁花婿」
プーランク:オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲

プロコフィエフ:交響曲第6番

指揮:デニス・ラッセル・デイヴィス
オルガン:松居直美
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

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