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京響×豪華キャストが魅せた「カルメン」の深層―京都市交響楽団 meets 珠玉の東アジア

京響×豪華キャストが魅せた「カルメン」の深層―京都市交響楽団 meets 珠玉の東アジア

広上淳一×京都市交響楽団(以下京響)への声援が、いま熱い。その高い演奏水準が評価され、2015年にはコンビで第46回サントリー音楽賞を受賞した。東京在住の筆者は必ずしもこのオーケストラの演奏を定点観測的に聴いてきたわけではないが、広上以外の指揮―大野和士指揮のベートーヴェン「第9」、沼尻竜典指揮ワーグナー「ラインの黄金」など―の演奏においても、常に全セクションが有機的に結び付いた見事な演奏を聴くことができた。昨年末の京響指揮者陣3人によるシュトックハウゼン「グルッペン」の意欲的な公演は全国的な注目を集めたし、東京公演におけるラフマニノフ「交響曲第2番」(前述のサントリー音楽賞受賞記念)では、感情の振れ幅を極限まで広げつつ、些かの乱れもない強靭な合奏力で聴衆を驚嘆させた。演奏・企画・集客と、あらゆる点でいま京響が日本のトップクラスをゆくことは疑いないところだ。

そんな「昇り龍」コンビの今回の演奏会は、「東アジア文化都市2017京都」に関連し、広く東アジアをテーマにしたプログラム。前半は朝鮮民謡「アリラン」の美しい編曲版、中国の少数民族であるヤオ族の民謡が基になった「瑶族舞曲」、そして日本からは外山雄三「管弦楽のためのラプソディー」という三品。各曲の沸き立つリズム・固有の旋律美が広上の巧みなリードと京響の精緻な演奏により活かされた。冒頭「アリラン」の旋律を奏でる弦の艶やかさは忘れがたいほどだし、耳馴染みの「ラプソディー」も熱気を孕みつつあくまで整然と奏された。つくづく京響は、「いいオーケストラを聴いた」という感慨に浸らせてくれる。

左から池田香織(カルメン)、広上淳一(指揮)、チョン・ヨンオギ(フラスキータ)、谷口睦美(メルセデス)

後半はビゼーの歌劇「カルメン」のハイライト。宮本益光(語りも担当)により物語は再構成され、第三者である原作者メリメの視点でカルメンとホセの物語を追う形となった。成程この再構成により、単なる愛憎劇を超えたダークな回想録として「カルメン」が響いてくる。元来、カルメンはロマ女性、ホセはバスク人、そして語り手メリメはフランス人という、社会における複雑な民族の壁がこの物語の背景には存在しているのだ。文化を通じた東アジアの相互理解・交流を掲げた演奏会のプログラミングとしては、象徴的な意味を持つかもしれない。
冒頭は語りと衛兵の交代で始まり、京都市少年少女合唱団が可愛らしく登場する。飴ちゃんの代わりに八ツ橋(そう、ここは京都だ!)を宮本が子供たちに配り笑いを誘う場面は微笑ましかった。子供たちの合唱は第4幕の行進曲でも登場し、野趣に溢れた京響コーラス共々大いに盛り上げた。日中韓の独唱陣は多彩な魅力を次々と見せてくれた。まずは表題役カルメン(池田香織)。美しい仏語の綾と細やかな演技により、「魔性の女」に留まらない繊細な人物像を示してくれた。誇り高き女性でありつつ奔放でもあり、同時に翳を帯びた表情も時折見せる。歌唱の細部にまでカルメンの精神が宿っていた。ドン・ホセ(ユン・ビョンギル)は抜けの良い高域の美声を活かし、幕切れではカルメン共々客席を大いに引き込む。フラスキータ(チョン・ヨンオギ)、メルセデス(谷口睦美)は妖艶さ充分にカルメンを支え、第3幕の三重唱では会場を熱狂に導いた。エスカミーリョ(ジョン・ハオ)も凛とした舞台姿で魅了した。広上の指揮は躍動感に富み、かつ歌い手との呼吸も万全。緊迫感ある響きで全曲を彩った京響も、前半に引き続き素晴らしい。

左から広上淳一(指揮)、宮本益光(構成・ナレーション)、ジョン・ハオ(エスカミーリョ)、谷口睦美(メルセデス)、チョン・ヨンオギ(フラスキータ)、池田香織(カルメン)、ユン・ビョンギル(ドン・ホセ)

前後半で趣を変えつつ進行した、国際色豊かなキャストとプログラムによる華やかな演奏会だった。特に「カルメン」は演奏会形式・ダイジェストながら全曲のエッセンスを充分に味わうことができた。ひとえに演奏の素晴らしさゆえであろう。特に池田香織のエスプリの効いたカルメン像は印象深く、ぜひ全曲舞台上演でも観たいところである。

撮影・佐々木卓男
文・平岡拓也


東アジア文化都市2017京都
京都市交響楽団 meets 珠玉の東アジア
2017年11月5日(日)
京都市コンサートホール

■チェ・ソンファン:管弦楽曲「アリラン」
■リュー・ツェシャン(マオ・ユァン編曲):瑶族舞曲
■外山雄三:管弦楽のためのラプソディー

■ビゼー:歌劇「カルメン」(演奏会形式/ダイジェスト版/ナレーション付)
 構成・ナレーション:宮本益光
 カルメン:池田香織(メゾ・ソプラノ)
 ドン・ホセ:ユン・ビョンギル(テノール)
 エスカミーリョ:ジョン・ハオ(バス)
 フラスキータ:チョン・ヨンオギ(ソプラノ)
 メルセデス:谷口睦美(メゾ・ソプラノ)
 合唱:京響コーラス、京都市少年合唱団
 管弦楽:京都市交響楽団
 指揮:広上淳一

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