オペラ・エクスプレス

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たった2回のみ上演される、充実のモーツァルト———演奏会形式で体感する《コジ・ファン・トゥッテ》

たった2回のみ上演される、充実のモーツァルト———演奏会形式で体感する《コジ・ファン・トゥッテ》

この週末、いよいよ話題の公演が幕を開ける。音楽監督としての第三シーズンも好調なジョナサン・ノットと東京交響楽団が演奏会形式によるモーツァルトの歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」を彼らの本拠地であるミューザ川崎シンフォニーホール、そして池袋の東京芸術劇場で上演するのだ。
いわゆる「ダ・ポンテ・オペラ」として高く評価され愛されてきた三作の中では比較的上演頻度も低い「コジ・ファン・トゥッテ」だが(比較対象が「フィガロの結婚」と「ドン・ジョヴァンニ」では知名度が落ちるのはどうにもならない、モーツァルトの傑作でも「魔笛」以外の作では太刀打ちできまい)、その音楽的充実は見事なものだ。そのオペラをスダーン時代の見事なモーツァルト演奏で名を上げた東京交響楽団がノット監督と演奏するのだから、とこの公演は早い時期から注目されてきた。経験豊富なトーマス・アレンをドン・アルフォンソに、さらに舞台監修に迎えたことで良質の舞台への期待はいやが上にも高まろうというものだ。ではその舞台はどのように作られているだろうか?リハーサルの二日目となった、6日に行われた第一幕のリハーサルの模様をここにお届けしよう。

ミューザ川崎シンフォニーホールのステージに配置された東京交響楽団の編成は6型、先日上演したばかりの東京二期会「ナクソス島のアリアドネ」とほぼ同規模の人数が舞台に揃う。ノット監督のときにはいつもそうであるようにヴァイオリンは対向配置(コントラバスが下手奥になる)、ナチュラルトランペットとケトルドラムはこの時代の音楽を演奏する際の東響としてはこれもいつもどおり、フルート・セクションが木製の楽器を使うのは音色的な配慮だろうか。しかし舞台でまず目を引くのは指揮台の位置に設置されたハンマーフリューゲルだ。レチタティーヴォでは通奏低音を担当し、それ以外では指揮をする、ノット監督の奮闘ぶりは上演中はずっと聴衆の目を引くことだろう。

ジョナサン・ノット(中央)
ジョナサン・ノット(中央)

リハーサルは序曲から始まり、第一幕を順に仕上げていく。ちょっとしたフレーズの中で緩急をつけたり歌わせ方をあわせたりと、リハーサルの進め方はいつものノット&東響のそれだが、その反応の良さは以前取材した時以上のものに私には思えた。なにせ「コジ」は長い作品なのだからリハーサルには手際のよさが求められるところだが、欧州ツアーを成功させたノット&東響はツアー前より明らかに積極的な音楽を作り出している(これは先日の定期演奏会、川崎定期を聴かれた方も同意してくれるだろう)。

そしてこの舞台には、その役柄と違って信頼できるドン・アルフォンソ、トーマス・アレンがいる。彼はこの作品で彼の役割がそうであるように、出番でないときも舞台全体に目を光らせて、常にコミュニケーションを取るその姿は監督のようだ。なんでも、今回の上演がちょっとした演出付きのセミステージ形式になったのは、リハーサルの流れで自然にそうなったものだという。なるほど、ノット監督とキャストたちが舞台上でちょっとしたディスカッションを繰り返していたのも納得がいく。出入りや立ち位置など常に同僚に気を配るトーマス・アレンは、コンサート会場を”舞台”に変えてみせることだろう。

サー・トーマス・アレン(中央)と新国立劇場合唱団
サー・トーマス・アレン(中央)と新国立劇場合唱団

この日、フィオルディリージ役に予定されていたミア・パーションが急病のためキャンセルとなったことも発表されている。いそぎ来日したヴィクトリヤ・カミンスカイテはリハーサルの開始に間に合わず、空港からミューザ川崎シンフォニーホールに直行してこの日の途中から参加したほどの急の事態だ。すでにフェルランド役が当初予定のショーン・マゼイからアレック・シュナイダーに変更されていることを併せて心配される方もいるだろう。
だが、と申し上げたい。この日のリハーサルで私が見た、指揮者とキャスト、そしてオーケストラが即席ながら親密な”カンパニー”となってお互いに触発し合う様からは、この日拝見したもの以上に楽しめる舞台が出来上がることは想像に難くない。空港から着いたばかりのカミンスカイテもたちまちリハーサルに溶け込んで、見事な歌唱を聴かせてくれていたことをお伝えしておこう。

ヴィクトリヤ・カミンスカイテ/マイテ・ボーモン/サー・トーマス・アレン
前列左より:ヴィクトリヤ・カミンスカイテ/マイテ・ボーモン/サー・トーマス・アレン

わずか2日しか上演がないのが本当に惜しまれるこの「コジ・ファン・トゥッテ」、ぜひとも多くの皆さんに、この充実したモーツァルトを体験してほしい。そう強く感じさせたリハーサルは本日の第二幕、明日のゲネプロと続いて、金曜にいよいよ幕が上がる。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba / photo: Naoko Nagasawa


モーツァルト 歌劇コジ・ファン・トゥッテ全2幕
演奏会形式・原語上演(日本語字幕付き)
公演時間:約3時間(途中休憩1回)

2016年12月9日(金)18時30分 ミューザ川崎シンフォニーホール
2016年12月11日(日)15時 東京芸術劇場コンサートホール

指揮、ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(東京交響楽団音楽監督)
舞台監修、ドン・アルフォンソ:サー・トーマス・アレン

フィオルディリージ:ヴィクトリヤ・カミンスカイテ
ドラベッラ:マイテ・ボーモン
デスピーナ:ヴァレンティナ・ファルカス
フェルランド:アレック・シュレイダー
グリエルモ:マルクス・ウェルバ

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

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