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『リゴレット』『トゥーランドット』二つの傑作オペラを持って来日—英国ロイヤル・オペラ2024 日本公演 開幕記者会見レポート

『リゴレット』『トゥーランドット』二つの傑作オペラを持って来日—英国ロイヤル・オペラ2024 日本公演 開幕記者会見レポート

6月18日(火)、都内で英国ロイヤル・オペラ(ROH)の日本公演 開幕記者会見が開かれました。激しい雨の中で会場に着くと、登壇者たちの席が設えられた後ろの窓は一面の緑が雨に打たれ、最高の背景となっています。

時間になると登壇者が入ってきました。主催の公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)専務理事の髙橋典夫氏、英国ロイヤル・オペラ、オペラ・ディレクターのオリヴァー・ミアーズ氏、英国ロイヤル・オペラ音楽監督アントニオ・パッパーノ氏、『リゴレット』マントヴァ公役ハヴィエル・カマレナ氏、『リゴレット』ジルダ役ネイディーン・シエラ氏、『トゥーランドット』カラフ役ブライアン・ジェイド氏、『トゥーランドット』リュー役マサバネ・セシリア・ラングワナシャ氏の7名です。


まずは髙橋専務理事より、公演の概要の説明がありました。英国ロイヤル・オペラは1979年の初来日で、コリン・デイヴィス指揮『魔笛』『ピーター・グライムズ』『トスカ』を上演してから今回が数えて第7回目。21世紀に入ってからの2010年、2015年、そして前回の2019年はいずれもマエストロ・パッパーノの指揮で『椿姫』『マノン』、『ドン・ジョヴァンニ』『マクベス』、そして『ファウスト』と『オテロ』を上演しています。またNBSは英国ロイヤル・バレエ団も14回に渡って招聘しているので、同劇場とはとても緊密な関係にある、とのことでした。

公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)専務理事 髙橋典夫氏

キャスト変更のお知らせもあり、『トゥーランドット』のタイトルロールに予定されていたソンドラ・ラドヴァノフスキーさんが、副鼻腔炎と重度の中耳炎を発症したため来日ができなくなってしまい、音楽監督のパッパーノ氏の推薦により、マイダ・フンデリングさんが同役を歌うことになった、という発表でした。


続いて英国ロイヤル・オペラ(ROH)オペラ・ディレクター、ミアーズ氏の挨拶です。会見の数時間前に日本に到着し会場に駆けつけたミアーズ氏は「イギリスのお天気まで持ってきてしまい申し訳なく思っております」といういかにも英国人らしいご挨拶から始まり、当代随一の歌手たちとマエストロ・パッパーノと共に来日公演を実現できたこと、それは英国ロイヤル・オペラの全てのメンバーの努力の成果であり、何より日本の主催者のおかげであるという感謝の言葉を述べました。

英国ロイヤル・オペラ、オペラ・ディレクター:オリヴァー・ミアーズ氏

ミアーズ氏はオペラ・ディレクターの役職にありますが、それに加えて今回上演されるヴェルディ『リゴレット』の演出家でもあります。2021年にロンドンで初演されたプロダクションです。そしてもう一つの演目プッチーニ『トゥーランドット』は何と、1984年に初演されたアンドレイ・セルバン演出のプロダクションで、こちらは長年英国ロイヤルの看板となっている名舞台です。

ミアーズ氏は今回の来日公演について、とても嬉しいけれどほろ苦い気持ちもある、なぜならこれはパッパーノ氏のROH音楽監督としての最後の仕事の一つであり、「22年もの間、ロンドンや世界の観客に感動を与えてきたパッパーノ氏が、音楽監督として最後に横浜と東京で指揮をするのは、私たちの国際的な評価を完璧に反映していると思います」と述べ、「多くの皆さんに心より楽しんでいただけたら」と結びました。


パッパーノ氏は、今回が英国ロイヤル・オペラとの4度目の来日となります。「最後に、二つの素晴らしい演目をお届けすることになりました」「『リゴレット』は完璧なオペラと言っていいでしょう。構造的な内容、物語性、旋律美など全てにおいて。原作はヴィクトル・ユゴーですが、シェイクスピアを彷彿とさせる完成度の高さ、そして新しさ、全てを持ち合わせた最高なオペラ、完璧なオペラです」と語ります。

英国ロイヤル・オペラ音楽監督:アントニオ・パッパーノ氏

一方、『トゥーランドット』に関しては、「まるでオラトリオのような、儀式的な舞踊のような所があり、ストラヴィンスキー、バルトーク、シュトラウスの影響(ドビュッシーは勿論のこと)が、シマノフスキ、プッチーニへと続くことを感じさせる音を取り入れており「そうしたものをプッチーニは自分の中で昇華させ、独特の世界、想像のアジアの世界を舞台作品として書き上げたのです」と説明しました。パッパーノ氏は近年、『トゥーランドット』をスタジオ録音し、英国ロイヤルで指揮したのが劇場における初めての『トゥーランドット』となったが、『ラ・ボエーム』のようないかにもオペラらしい物語ではない、それとは違う世界だと思ってある意味敬遠していたこの作品が、それゆえに特別であり、「オーケストラ、合唱、全てが繰り広げる特別な音の世界、壮大な音の世界を表現できる」と実感したそうです。

「英国ロイヤル・オペラという長年の家族同様のカンパニーとの最後の公演を、やはり長年、何度も訪れて家族のように感じている日本の聴衆にぜひ聴いてもらいたい」という発言もありました。


次は『リゴレット』マントヴァ公を歌うカマレナ氏。「今回が初来日。日本に来られてとても嬉しいです。最高の聴衆の前で『リゴレット』を歌うことは喜びです。私の声ですと悪役を演じる機会がとても少ないんです。あまり歌う機会がない悪役を楽しんでやりたいと思っています(笑)。オリヴァーの演出は、私の、このキャラクターに対する解釈と一致しており、そういう意味でもやりがいを感じています」「とにかくこの役はアリア「女心の歌」がとても有名で、過去にも偉大なるテナーたちが歌ってきました。その中で私は、声のみならず、役作りにおいても自分のアプローチをぜひみなさんにお届けしたいと思っています。親しい友人であるネイディーン・シエラ、とても人柄がよく歌手としても素晴らしいエティエンヌ・デュピュイという最高の仲間たちと共演できることも大きな喜びです」

『リゴレット』マントヴァ公役:ハヴィエル・カマレナ氏

ジルダ役のネイディーン・シエラさんが次に挨拶しました。シエラさんは世界中の一流歌劇場でこの役を歌っていますが、マエストロ・パッパーノとの共演はここ日本が初めてになるそうです。ジルダは彼女にとって大事な役で、「幸運と希望、そして多くの勇気を与えてくれた」役だそうです。

これまで一度だけ来日していますが(2010年の武蔵野文化)その時はリサイタルのみで5日間の滞在だったので、「また日本に来られたことを心から嬉しく思っており、みなさんに歌を聞いていただくことを楽しみにしております」とのこと。

『リゴレット』ジルダ役:ネイディーン・シエラ氏

次は『トゥーランドット』でリュー役を歌うマサバネ・セシリア・ラングワナシャさん。南アフリカ出身だそう。初来日です。ラングワナシャさんは「私はお庭を見るのが大好きなので、昨日から少し見た日本には素晴らしいお庭があり、滞在を楽しんでいます」とのこと。『トゥーランドット』のリュー役は、彼女が英国ロイヤル・オペラのジェット・パーカー・ヤング・アーティスト・プログラムで学んでいる時に、マエストロ・パッパーノからリュー役が向いていると思うから全曲を勉強しなさいと言われ、英国ロイヤル・オペラへのプロ・デビューもこの役でした。今も、ワシントン・オペラで歌ったばかりとのこと。「リューは美しい3つのアリアを歌いますが、キャラクターも皆さんの印象に残りやすい役。壮大で素晴らしいオペラ。舞台で歌っている私たちも「ホント!? マジ?」と思うような(笑)、信じられないほど素晴らしいプロダクション。その最高のステージを、皆さんに楽しんでいただきたいです」

『トゥーランドット』リュー役:マサバネ・セシリア・ラングワナシャ氏

最後に話したのは『トゥーランドット』カラフ役のブライアン・ジェイドさんです。日本で歌えると聞いて二つ返事でOKしたそう。英国ロイヤル・オペラはスタッフの方々皆が暖かく、劇場全体がアットホームに迎えてくれるのですが、その彼らと一緒に来日できるのもとても嬉しいです、とのことで、『トゥーランドット』のカラフ役については、「テノールにとって素晴らしい偉大な役の一つです。「誰も寝てはならぬ」は皆さんがご存知の超有名なアリアですが、この役は最初から最後まで全力疾走しなければならない、一つも息を抜けない役です。カラフは自分にとても強い自信を持っています。自分が勝利を収めることを疑わない。夢を叶える自信を持っている人物なのです」「精一杯駆け抜けるだけですし、素晴らしいキャストの皆さんと舞台に立つのが楽しみです。(トゥーランドットを歌うことになった)マイダ・フンデリングさんとは8年前に共演したことがある友人で、彼女との再会も嬉しい。新しい観客の皆さんの前で歌えることが本当に楽しみです!」

『トゥーランドット』カラフ役:ブライアン・ジェイド氏

会見の後半には、記者たちからのいくつかの質問がありました。まずパッパーノ氏へ、音楽監督としての年月を振り返っていかがですか?という問いには、「何年務めたか、ではなく作品の一つ一つに意味を見出しています。22年間に多くの演目、それもコントラストのあるさまざまな作品を指揮しました。音楽監督として指揮する作品を選ぶ時、とても貪欲に色々なものをやりたかったのです」「ワーグナーからプロコフィエフ、ベルク、モーツァルト、そしてヴェルディ、プッチーニ、それから、ジョルダーノ、シマノフスキ、ベルリオーズ、そして勿論ロッシーニ。これらの作品を一つ一つ積み上げていくうちに、私自身が劇場音楽、そして劇場というものについての見識を得ることができました」「素晴らしい歌手たち、素晴らしい演出家と一緒に働けたという、量よりも質の高さがこの年月の間に私が得ることができたものです」

次の質問は「英国ロイヤル・オペラの一番の特徴は何だと思いますか?ご自分たちの思うことをアピールとして聞かせていただけますか?」という内容で、ROHオペラ・ディレクターのミアーズ氏の返答は、「英国ロイヤル・オペラは、世界の一流のオペラ・ハウスだと自負しています。私たちの劇場の特徴はロンドンという都市の特徴でもあります。ロンドンには重要な劇場がたくさんあり、先ほどトニー(パッパーノ氏)が言及したように、“劇場”とはどういう場か?ということを大事にしています。我々が公演を行う時には、演技のレベル、美術、ストーリーテリング、などのレベルが音楽のレベルに見合うよう気を配っているのです」

「また、英国ロイヤルは300年近い歴史を持つ劇場ですが、特に大事なのが第二次世界大戦後の労働党による政策で、ナショナル・ヘルス・サービスだけでなく、アーツ・アウンシルとロイヤル・オペラ・ハウスを国立にしたこと。劇場はエリートのためだけでなく、全ての人に開かれている、という理念を実現するよう力を尽くしています。コストは年々上がり厳しい状況ですが、私たちは努力を続けています」

もう一人、出席した歌手たちの中で英国ロイヤル・オペラへの出演回数がもっとも多いテノールのブライアン・ジェイドさんは、「これまで英国ロイヤルでは『蝶々夫人』『アドリアーナ・ルクヴルール』『カルメン』『ドン・カルロ』『運命の力』そしてこの『トゥーランドット』の6作品に出演しています。劇場に帰ってくるたびにスタッフの方々がとても気を遣ってケアしてくれて、私たちが仕事に集中できるような環境を整えてくれます」「これは当たり前のようでいて、実は難しいこと。他の国でも歌っていますが、我々の仕事は複雑な内容を持っており、その面倒な部分を取り除いて環境を整えてくれるのが英国ロイヤル・ハウスなのです。そのおかげで私たちは芸術に集中し、役に全力投球することが可能になります」という返答でした。

最後の質問は、『リゴレット』も『トゥーランドット』もヒロインの自己犠牲がある。オペラ・ファンの間では解釈をめぐって議論しあうのも醍醐味だが、演じているオペラ歌手の方はどこに魅力を感じ、どのように共感して演じているのか?という内容でした。

『リゴレット』ジルダ役のネイディーン・シエラさんは、「ジルダが受けた唯一の教育は教会の教えでした。キリスト教の教えです。彼女は自分自身を、イエス・キリストの生涯に重ねる部分があったと思うのです」「他者の罪を背負って、身を捧げて死ぬということは、キリスト教を元にした彼女の強い信仰と信念に基づいている」という考えで、殺されることを覚悟してスパラフチーレの家に入る時に言う言葉は「神よ、彼らを許したまえ」です。それは公爵だけでなく、リゴレットだけでもない、スパラフチーレやマッダレーナを含む意味があります。彼女は自分の死で皆の魂を救おうとする。リゴレットが彼女の許しから学び、この後生きていった欲しいと望むのです。リゴレットがオペラの中でもっとも多く言う言葉は「復讐」。ジルダのもっとも多く言う言葉は「父上」です。「これまで多くの人が私に、公爵のために死ぬなんてジルダは馬鹿だ、と言いました。でも、彼女の行為はそれよりもっと多くのことを意味しているのです」

『トゥーランドット』のリュー役を歌うラングワナシャさんも、「リューは他者に忠実に使える女性。自分が、という発想はない」「秘めた愛情を抱いているカラフを救うために、自分が犠牲になるというのは、彼女にとって自然なことだったと思います」と、語りました。


ヴェルディ『リゴレット』、プッチーニ『トゥーランドット』。二つの傑作オペラを持って来日した英国ロイヤル・オペラ。音楽監督アントニオ・パッパーノが率いるのはこれが最後のツアーでもあり、一丸となって最高の舞台を届けたい、という彼らの意欲を感じた記者会見でした。

取材・文:井内美香
写真:長澤直子

英国ロイヤル・オペラ2024 日本公演
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/roh/index.html

ジュゼッぺ・ヴェルディ
リゴレット
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
6月22日(土)15:00
6月25日(火)13:00
 ※横浜平日マチネ特別料金
会場:神奈川県民ホール
6月28日(金)18:30
6月30日(日)15:00

会場:NHK ホール

ジャコモ・プッチーニ
トゥーランドット
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:アンドレイ・セルバン
6月23日(日)15:00
6月26日(水)18:30
6月29日(土)15:00
7月2日(火)15:00

会場:東京文化会館(上野)

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