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METに降臨する新女王ミード!音楽の大伽藍、ロッシーニの《セミラーミデ》上演

METに降臨する新女王ミード!音楽の大伽藍、ロッシーニの《セミラーミデ》上演

今年はロッシーニ没後150周年、世界中で重要プロダクションが上演されています。その中で早くも最高峰ではないかと思われる演奏が現れました。それがMETライブビューイングで公開される《セミラーミデ》です。

METの《セミラーミデ》が凄い五つの理由

1.《セミラーミデ》はロッシーニのオペラ・セリアの金字塔

《セビリャの理髪師》や《チェネレントラ》を始めとする、ロッシーニの楽しいオペラの数々。でも、ロッシーニには実はもう一つの顔があります。彼はシリアスな題材のオペラ(オペラ・セリア)をたくさん書いており、近年こちらの作品群の人気がとても高いのです。その中でも最高傑作と言われるのがこの《セミラーミデ》。ロッシーニはイタリアで大旋風を巻き起こし、やがてヨーロッパ中に名声が広まり、フランス国王の招きでパリに移住しますが、《セミラーミデ》は、彼がイタリアのために書いた最後のオペラです。1823年ヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場で初演されました。

ロッシーニは《セミラーミデ》の前に、ナポリでシリアスなオペラを多く書きました。それらはドラマチックな感情表現を優先し、イタリア・オペラの古典的な枠組みをはみだしたモダンで実験的な作品群と評価されています。その点《セミラーミデ》は古典的な手法に戻り、序曲、アリア、重唱などに別れた伝統を重んじる形式を使いながらも、劇的なテンションも最大限に高められた音楽となっています。それゆえ《セミラーミデ》はロッシーニのオペラ・セリアの分野における金字塔と言われ、他の作品の上演が途絶え忘れられていた長い年月にも、傑作として演奏され続けてきました。

2. METが世界初演した《セミラーミデ》の批判校訂版

ロッシーニのオペラ・セリアは音楽史における20世紀後半の最大の再発見と言われています。それは彼の自筆譜研究をもとにしたクリティカル・エディション(批判校訂版)の楽譜が次々に出版され、その演奏によって天才ロッシーニの真価が明らかにされているからです。その中でも《セミラーミデ》はメトロポリタン歌劇場が1990年にイタリアのロッシーニ財団に校訂版の作成を依頼し、その楽譜を採用して世界で初めて上演されたものです。その時に新制作されたプロダクションは、台本に忠実な豪華絢爛な美術のジョン・コプリーの演出。今回はその伝説的な舞台が25年ぶりにMETに甦ったのです。

3. 信じられない素晴らしさ!アンジェラ・ミードのセミラーミデ役

©2018 KenHoward/MetropolitanOpera

《セミラーミデ》は最高のキャストを得てこそ輝くオペラです。古代バビロニアの女王セミラーミデは、自らの夫である国王の暗殺に関わった後、その時に死んだと思っていた息子ニーニャ(アルサーチェ)にそうとは知らず恋をしてしまうような女性。その強烈なキャラクターを表現するには、技巧的にも秀でた歌の名人芸が必要になってきます。アメリカ人のプリマドンナ、アンジェラ・ミードは、美貌に迫力のある舞台プレゼンス、そして圧倒的な声とゆるぎないテクニックの持ち主。アジリタ(細かく素早い動きが必要な装飾歌唱)の冴え、ミ・ナチュラルまで出るレーザー光線のような高音、そして、豊かで引き締まった中音域。もともと英語圏はジョーン・サザーランドのようなベルカントの女王を多く輩出していますが、ミードはその中でも燦然と輝くスターとして名を残すのは間違いありません。

4. これ以上望めないキャストと爽快なベニーニの指揮による最高の演奏

素晴らしい歌手はミードだけではありません。ロッシーニ・オペラに欠かせない輝かしい高音系テノールのイドレーノ役にMETではもうお馴染みのハヴィエル・カマレナが出演。第一幕、第二幕それぞれのアリアで安定した歌唱を聴かせてくれます。セミラーミデが恋するアルサーチェ役は女性が演じるズボン役ですが、気品と情熱に満ちたベルベット・ボイスのエリザベス・ドゥショングが好演。悪役アッスールには端正な歌唱のイルダール・アブドラザコフ、祭司長オローエには深々とした美声のライアン・スピード・グリーンとこれ以上無い程のキャストが揃っています。イタリアの名匠マウリツィオ・ベニーニも引き締まったテンポで長丁場を巧みに盛り上げる指揮でした。また、このオペラは合唱が大きな役割を果たしますが、MET合唱団の活躍も特筆に値します。

©2018 KenHoward/MetropolitanOpera

5. 古代バビロニアを舞台にした音楽と歌の大伽藍

このオペラのもっとも有名なアリアはセミラーミデが第一幕の半ばで歌う「Bel raggio lusinghier麗しく美しい光が」です。もうすぐ愛するアルサーチェに会えると心ときめかせるセミラーミデが歌う、たいへん美しい旋律と後半の装飾歌唱が卓越した名曲で、ミードの歌唱も瞠目すべき出来映えです。

ところで、この場面は古代バビロニアにあった空中庭園という設定です。実際は屋上庭園の一種だそうですが、空中にせり出した自然という不思議な空間は、古代の人々に、どのような想像をかき立てたのでしょうか。

©2018 KenHoward/MetropolitanOpera

《セミラーミデ》は全2幕で、ロッシーニのオペラによくある第一幕が長い構成を持っており約105分、後半は80分程です。ロッシーニはこのオペラを書くにあたってまるで大聖堂を建築するような完璧な対称性を持たせました。第一幕の衝撃的なフィナーレを中心に据え、そこまでの楽曲構成(導入の曲→アリア→二重唱→アリア→アリア→二重唱)を、そこから後の第二幕で鏡映し(逆さま)に再現しているのです。序曲はオペラの中の重要シーンのモチーフを巧みに使っています。ロッシーニは自分の曲を他のオペラに転用することで有名でしたが《セミラーミデ》にはそれをしませんでした。全ての曲がこのオペラのために書かれています。

ロッシーニはナポリ時代に出会い、後に結婚して彼の妻となったスペイン出身の名歌手イザベッラ・コルブランをミューズとして、彼女を主役にしたオペラを数多く書きました。《セミラーミデ》はその最後の作品です。すでに歌手としては衰えがはっきりしていた彼女へのオマージュが《セミラーミデ》でした。

古典的な美の世界、音楽と歌で描く大伽藍。天才ロッシーニが書いた最高のオペラ・セリアは、完璧であるが故にオペラ・セリアという一つの時代を終わらせました。あまりにも眩しい燦然とした煌めき。その輝きはいまでも人々を魅了し続けるのです。

文:井内美香
参考文献:日本ロッシーニ協会HP《セミラーミデ》作品解説(水谷彰良)

MET ライブビューイング 2017-18
《セミラーミデ》

上映期間:2018年4月14日(土)~4月20日(金)

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