オペラ・エクスプレス

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楽都:仙台で心に響くベートーヴェンの《第九》(全4ページ)

演奏会の実質上のプロデューサーは、仙台市国際コンクールや「せんくら」など仙台市の文化芸術事業を数多く立ち上げ、近年は舞台演出家としても活躍する志賀野桂一氏です。志賀野氏は現在、東北文化学園大学の特任教授であり、福島県白河市の白河文化交流館コミネス館長兼プロデューサーでもあります。《第九》コンサートについて志賀野教授にインタビューしました。


Q:東北文化学園大学は震災以来《第九》コンサートを毎年開催しています。大学にとってこの演奏会の一番の意義はどこにあるとお考えですか?

志賀野:学生たちが授業の一環として《第九》を歌うということは、本番で歌うだけでなく、シラーの詩に込められた意味を学び、ベートーヴェンの音楽の本質に触れるなど、多角的に学ぶ機会になっています。そして一流の指揮者とオーケストラ、そしてプロの歌手の方々と同じ舞台に立って歌い、大きな拍手を浴びることは、新しい世界を知ることでもあり、その体験から自信を得て自分たちの勉学にもやる気を出す力になっていると思います。

Q:志賀野先生は仙台のご出身で、仙台市の音楽関係の事業に長年関わっていらっしゃいます。東北復興という意味では、どのように音楽が寄与している実感がありますか?

志賀野:3.11を思い起こせば、それによって様々な不幸に見舞われた人、傷つき、いまだに大変な人達がいます。震災後、いろいろな形での支援活動がありましたが、文化芸術の力による復興は、やはり心に関わる部分が大きかったと思います。いまは震災後七年目にさしかかっていますが、復興というとよく「忘れないようにしよう」というキャンペーンがあります。それはもちろん大事なことですが、自分の両親を失くした震災孤児もいますし、そういう子達にとってはむしろ震災は忘れようもないわけです。音楽、あるいはその他の芸術活動がもたらす効果というのは、短い時間でもその活動、その世界に没入出来るということ。だから一瞬だけでも忘れることが出来たり、あるいは笑ったり泣いたりする感情表現がフリーズして固まってしまっているものを解放するというか、それが最も重要な役目なのではと思うのです。
音楽は芸術文化の中でも本当にダイレクトに入って来る。そういう意味ではとても強いメディアだと思います。癒すというよりはリセットしていかないと人間は先に進めませんから。音楽はそういうことの更新出来るきっかけを与えているのではないかと思いますし、更にまた、音楽活動は自分も参加する側、歌う側に入ることが出来ます。そのことにおいて音楽の力は大きかったと思います。

Q:このコンサートは地元の新聞やwebを通じて告知を行い、応募者を無料で招待しています。地元だけでなく全国色々なところから来る観客に一番伝えたいことは何ですか?

志賀野桂一教授と練習ピアニストを務めた先生方

志賀野:一つは大学がこのコンサートを主催する意味です。この取り組みは、本当にドイツ語も分からない、音楽的な素養もそれ程ない、楽譜も読めない学生たちが、ここまでの歌が歌えるように到達出来る、そのプロセスが一番大事なのです。非常に丁寧な作りをされている《第九》ではないか、と私は思っています。一つの曲を4月から12月までかけて学ぶのはやはり大変なことなのです。学生たちには後でどのようなプロセスで自分が取り組み、その結果どうだったのかというのを書いてもらうのですが、教師陣がそこで感じるのは、彼らの心の変わり様、もう少し言えば成長に感動しています。《第九》は全国各地で数多く演奏されていますが、その中でもひと味違った《第九》に仕上がっているのではないかと思いますので、そこを感じていただけると嬉しいです。

〈次ページ:今回の《第九》を指揮した飯森範親マエストロ〉

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