
2025年夏、チャイコフスキーが遺した二つの名作――オペラ《イオランタ》とバレエ《くるみ割り人形》を融合した新たな舞台が、東京二期会とウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団の共同制作により日本初演される。この注目作に先立ち、演出家・指揮者・振付家が揃う記者会見が開催された。

※本記事は、記者会見で語られた内容をもとに構成しています※
ロッテ・デ・ベア(演出)のコメントから

《イオランタ》は、私にとって長年夢見てきた特別な作品です。音楽と物語の両方に深く親しみを感じていて、いつかこの作品を演出したいと願ってきました。
この物語は、視力を持たずに育った少女が、大人になることを受け入れ、現実と向き合うようになる“成長の物語”です。だからこそ、誰の心にも響く、普遍的な力を持っていると感じています。
今回はこの《イオランタ》に、《くるみ割り人形》を組み合わせるという新しい形で取り組みました。この二作品は、実は同じ夜に初演されたという歴史的な背景があり、そこに運命的なつながりを感じたのです。
《イオランタ》の中で描かれない、目の見えない少女が思い描く空想世界――それを《くるみ割り人形》のバレエで“視覚化”することで、彼女の内面世界を舞台に可視化します。そして、その幻想的な世界は、彼女が視力を得て現実を受け入れた瞬間に消えていきます。
でも終わり方は、ただ現実に折り合いをつけるのではありません。《くるみ割り人形》の“アポテオーズ”の音楽を最後に重ねることで、“今ある現実を受け入れるだけでなく、もっと良い世界を創造しよう”という希望を込めました。
このプロダクションは、私がウィーン・フォルクスオーパーの芸術監督として最初に手がけた作品でもあります。バレエ団と真にコラボレーションできる環境を整える中で、振付家アンドレイ・カイダノフスキー氏と出会い、共にこの融合舞台を創り上げることになりました。
フォルクスオーパーでは、いつも“すべての世代に届く舞台”を目指しています。この作品も、子どもから大人まで、バレエやオペラを初めて観る方にも響くように構成しています。ただのおとぎ話ではなく、心理的な深みや変化も丁寧に描くことで、年齢や背景を超えて共感してもらえる作品になったと思います。
マキシム・パスカル(指揮)のコメントから

19世紀、音楽は主にシンフォニーやオペラのために書かれるのが主流だった中で、チャイコフスキーは初めて「バレエのために」「ダンサーのために」音楽を書き始めました。その功績は大きく、彼の存在がなければ、ストラヴィンスキーの《春の祭典》や、ドビュッシー、バレエ音楽といった20世紀の舞踊作品も生まれていなかったかもしれない。音楽家にとってもダンサーにとっても、チャイコフスキーは特別な存在です。
彼の音楽の特徴は、自然や風景といった外界からの影響というよりも、内面の深層心理や感情から直接インスピレーションを得ている点にあります。
《イオランタ》と《くるみ割り人形》は、作曲時期もほぼ同じ。実際、この二つの作品には“表裏一体”ともいえる要素が多数組み込まれており、それが今回の公演の大きな魅力になっています。
また、チャイコフスキーの音楽には、多様な文化的背景がはっきりと感じられます。《くるみ割り人形》にはオーストリアのワルツの影響が、《イオランタ》にはフランス・オペラからの影響が色濃く反映されています。歌唱に関して言えば、《イオランタ》にはイタリアのベルカントの作品に通じる部分が聞かれます。
アンドレイ・カイダノフスキー(振付)のコメントから

ロッテ・デ・ベアの演出構想を最初に聞いたとき、非常に明快で納得のいくものでした。振付家としてすぐに入り込むことができました。
チャイコフスキーは、ダンサーにとって特別な存在です。感情にまっすぐ届く力があり、振付のインスピレーションが自然に湧いてくる。ただし、音楽は決して単純ではなく、豊かな情報量が詰まっているからこそ、創作における無限のヒントを与えてくれます。
今回の振付は、プティパのスタイルを意識することなく構築しました。踊りの言語としてはコンテンポラリーを選びましたが、チャイコフスキーの音楽が持つ19世紀的なノスタルジーや、クラシックとしての品格は決して手放していません。また今回は、傾斜舞台という点を踏まえ、ダンサーにポワントを履かせることは避けました。技術的な負荷をかけず、より自由な身体表現を引き出すためです。
川瀬賢太郎(指揮)のコメントから

今回、愛知と大分の公演で指揮を務めます。『くるみ割り人形とイオランタ』は、どの世代の方にも楽しんでいただける、間口の広い作品です。オペラファンはもちろんですが、むしろ“バレエしか観ない”という方にこそ、ぜひ体験していただきたい舞台です。ジャンルの垣根を超えた舞台芸術の魅力がつまっている。
衣裳も本当に美しく、振付も素晴らしい。そして何より、二期会の歌手の皆さんが本当に熱意をもって取り組んでくださっていて、その姿勢に心を打たれています。
個人的には、長年ポストを持たせていただいている名古屋フィルハーモニー交響楽団と、今回初めてオペラのピットに一緒に入れることになり、とても楽しみにしています。名古屋と大分、それぞれの舞台で、観客の皆さんに最高の時間をお届けできればと思っています。

取材・写真:オペラ・エクスプレス編集部
公演情報
ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作
東京二期会オペラ『くるみ割り人形とイオランタ』〈新制作〉
日本語字幕付原語(ロシア語)上演
作曲:ピョートル・チャイコフスキー
上演予定時間:2時間15分(休憩1回含む)
【東京公演】日時:2025年7月18日(金)18:00、19日(土)、20日(日)、21日(月・祝)各14:00
会場:東京文化会館 大ホール
【愛知公演】日時:2025年7月26日(土)13:00
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
【大分公演】日時:2025年8月2日(土)13:00
会場:iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
指 揮:マキシム・パスカル【東京公演】/川瀬賢太郎【愛知・大分公演】
演 出:ロッテ・デ・ベア
バレエ:東京シティ・バレエ団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団【東京公演】
名古屋フィルハーモニー交響楽団【愛知・大分公演】
〈7/18・20〉〈7/19・21〉
配 役:イオランタ 梶田真未* 川越未晴
ルネ 狩野賢一* 北川辰彦
ヴォデモン伯爵 伊藤達人* 岸浪愛学
ロベルト 大川 博* 菅原洋平
エブン=ハキア 小林啓倫* 宮本益光
アルメリック 大槻孝志* 濱松孝行
ベルトラン 水島正樹* ジョン ハオ
マルタ 小野綾香* 一條翠葉
ブリギッタ 清野友香莉* 田崎美香
ラウラ 郷家暁子* 川合ひとみ
※ *は愛知・大分公演出演者
詳しくは公式サイトをご確認ください



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