来年2025年の2月、見逃せない公演の一つに、東京期会によるビゼーのオペラ『カルメン』の新制作がある。世界で最も人気のあるオペラの一つとされる『カルメン』は、情熱的な音楽に、愛と自由の物語が織りなす名作オペラだ。その新たな舞台が、東京で生まれようとしている。
演出には、演劇界の巨星ピーター・ブルックを父に持ち、フランスのレジオン・ ドヌール勲章をはじめ数多の栄誉に輝くイリーナ・ブルックを迎える。
指揮は沖澤のどか。若くしてすでに京都市交響楽団常任指揮者、セイジ・オザワ松 本フェスティバル主席客演指揮者など重要ポストを担う俊才だ。
ワールドプレミエは2025年2月20日(木)、東京文化会館大ホールにて。その後も22日(土)、23日(日・祝)、24日(月・休)と、ダブルキャストで計4回の上演が行われる。
去る11月、年明けからの本格的な立ち稽古に先がけ、演出のイリーナ・ブルックが急遽来日。11月24日、25日の2日間にわたり、キャストを集めてのワークショップが開催された。その様子はハイライト動画にまとめられており、youtubeで見ることが出来る。
▼東京二期会オペラ劇場『カルメン』演出家イリーナ・ブルックとキャストによるワークショップ(ハイライト)
このワークショップの目的は、ブルック氏とキャスト、更にはキャスト同士の理解を深め、チームワークの醸成を図るというところにあった。来年25年1月から始まる本格的な立ち稽古を前に、お互いの信頼関係を作っていき、方向性を同じくチーム化する。ワークショップを終えたブルックは言う。「たった2日間のワークショップだったが、6カ月の稽古にも匹敵するような内容の濃い時間だった」と。
ワークショップ最終日に稽古場を訪れ、ブルックの囲み取材に参加した。演出のコンセプトをはっきりと確認することはできなかったが、女性が描くカルメンを前面に出していこうというアプローチなのではないか?ということを予想した。
稽古場の奥にはいくつものハンガーラックがあり、そこには色もデザインも多様なものが、ずらりとかかっていた。あれらの衣裳がそのまま舞台で使われるのだろうか?上記映像には、それらを着用した歌手たちの様子も含まれている。これから描かれようとしている『カルメン』がどのようなイメージなのか、参考までに閲覧してみて欲しい。
映画的な描写に着目してそこから入っていったのがまず最初
「オペラを演出する場合にも、映画からの影響が大きく、その時々の真実のキャラクターでいることを非常に大事にしている。大劇場の空間で演じられるオペラだが、全て大きく演技しなければならないというのは違うと、早い段階で気づいていた。全てを大袈裟に表現せずとも、真実味を帯びた演技は、演者の鼓動や振動を通じて、感情をお客様に届けることは間違いなく出来ると。壮大な音楽と歌唱の中に、真実の感情、大袈裟ではない本物の演技がマッチしたときが最高の瞬間になる。それが一番達成したいこと。」
「演劇の演出との相違点は、音楽という枠がある点。せりふをしゃべる上でのタイミングもある程度コントロール出来るが、オペラは音楽という制約があり、それに逆らうことは出来ない。演技は音楽に必ず忠実であるべきだ。」
今を生きる人たちに、どういう描き方でリアリティーを伝えるか
時代設定や具体的な装置などについてはどう考えているのだろうか?
「映画でいうと『マッドマックス』や『ブレードランナー』のような、ディストピアのような世界をイメージ。」
「具体的なセットを全部はっきりと決めるようなものにせず、歌手の皆さんに遊びを残せるようなものを作りたい。そういう意味では、時代をはっきりと決めてしまうのではなく、イメージ、想像のための余白を残す。」
抽象的な見た目のものになるのだろうか?
カスタネットは鳴らさない?現代に生きる我々のために真実味のある舞台を
ジプシー、タバコ工場、盗賊団、闘牛士・・・原作の持つ設定も変えるのだろうか?
「現代の日本人に取ってリアリティーのある表現を。オペラはフランス語でスペインが舞台、キャストは日本人。そのままでは理解しずらいものになってしまう。時代設定や要素を全部まとめた上で、どういうふうに表現するか。例えば今具体的な例では、二幕でカルメンがカスタネットを鳴らす部分。カスタネットそのものを舞台上に出さなくても、今日常で使われているナイフやフォークで音を出す。そんな工夫が出来る。」
「闘牛士もスペインの闘牛士のイメージに縛られずに。今あるプランは自分を闘牛士だと思いこんでしまっている人というアイデア。もしくは派手な衣装で出てくる魅力的な人。荒涼とした山中に突如として現れる魅力的な人というようなイメージ。」
俳優,オペラ歌手・・・彼らに気持ちよく舞台に立ってもらうことが一番大事
ピーター・ブルックの影響についても聞いてみた。
「演出家の父(ピーター・ブルック)の影響で、子どもの頃からずっと劇場にいた。コロナ渦で初めて一線を離れたが、結局はまた舞台に戻ってきた。劇場の仕事を辞められなかったのは、一番好きなことだから。演者、俳優、オペラ歌手、全員含めて彼らに気持ちよく舞台に立ってもらうということが一番大事なこと。」
「父はどちらかと言うとミニマリスト。自分はその逆で、ものがいっぱいあるのがっていうところが明確な違いかもしれない。」
今回のカルメンでは、演出のみならず衣裳も担当するブルック。視覚的な美に重点を置き、美術や照明など、ディテールにもこだわった舞台を見せてくれるだろう。チケットは既に発売されており、プレミエの2月20日(木)公演は、S~B席が1,000円引きで購入できる。また、39歳以下 の方のためのU39席は10,000円、27歳以下の学生のための学生席2,000円も用意されている。詳細は、以下の『カルメン』特設サイトより確認出来る。
2025都民芸術フェスティバル参加公演
東京二期会オペラ劇場ビゼー『カルメン』《ワールドプレミエ》
オペラ全4幕 日本語および英語字幕付原語(フランス語)上演
【公演情報】
2025都民芸術フェスティバル参加公演
東京二期会オペラ劇場
ビゼー『カルメン』《ワールドプレミエ》
オペラ全4幕 日本語および英語字幕付原語(フランス語)上演
東京文化会館 大ホール
2025年2月20日(木)18:00、22日(土)14:00、23日(日・祝)14:00、24日(月・休)14:00
※開場は開演の60分前
指揮:沖澤のどか
演出・衣裳:イリーナ・ブルック
装置:レスリー・トラバース
照明:喜多村 貴
振付:マルティン・ブツコ
合唱指揮:河原哲也
演出助手:彌六
舞台監督:村田健輔
技術監督:大平久美、村田健輔
公演監督:永井和子
公演監督補:大野徹也
配役:2/20(木),23(日・祝)/2/22(土),24(月・休)
カルメン:加藤のぞみ/和田朝妃
ドン・ホセ:城宏憲/古橋郷平
エスカミーリョ:今井俊輔/与那城敬
ミカエラ:宮地江奈/七澤結
スニガ:ジョン ハオ/斉木健詞
モラレス:室岡大輝/宮下嘉彦
ダンカイロ:北川辰彦/大川博
レメンダード:高田正人/大川信之
フラスキータ:三井清夏/清野友香莉
メルセデス:杉山由紀/藤井麻美
合唱:二期会合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
主催:公益財団法人東京二期会
支援:大村未来基金、宗次未来基金、服部未来基金
協賛:上野トランステック株式会社、みずほ証券株式会社、三井不動産株式会社
シーズン特別協賛: 興和株式会社、ソニーフィナンシャルグループ株式会社、ダイドー株式会社 東京海上日動火災保険株式会社、株式会社三井住友銀行、株式会社龍角散
取材・文・写真:オペラ・エクスプレス編集部
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