来る6月21日、東京を拠点とする若手オペラカンパニーNovanta Quattro(ノヴァンタ・クワトロ/以下NQ)が、第6回公演として新作オペラ《船はついに安らぎぬ》を世界初演する。エドガー・アラン・ポーの怪奇小説「赤き死の仮面」を原作とし、ゲンロンSF新人賞受賞作家の河野咲子が脚本を手がける意欲作だ。作曲はミュンヘン音楽演劇大学修士課程在学中でオペラや声楽作品も多く発表する永井みなみ、指揮は近年オペラ指揮者として活躍の場を広げる鈴木恵里奈。これら3 人の女性アーティストと、ドラマトゥルクの伊藤靖浩、主宰・演出の吉野良祐が名を連ね、劇場を船内空間に変身させる。

陸地のほとんどが水没してしまったあとの世界で。
原作者エドガー・アラン・ポーは“推理小説の父”とも呼ばれ、耽美的/退廃的な世界観はフランス象徴派の詩人や作家に大きな影響を与えたことで知られている。短編怪奇小説である原作「赤き死の仮面」では、“「赤死病」を逃れた王と臣下が閉じこもり饗宴に耽る城砦”が舞台となっているが、本作では船の上が舞台になっているようだ。あらすじは以下の通りである。
プロスペロ父子の支配する巨大な客船は、すれ違う船から食料や財宝、燃料を奪いながら、途方もない速さで海洋を航行している。船内では、奪い取った品々を用いた豪華な宴が毎夜のように催され、マエストロ・ポオが次々と書き上げる恐ろしい歌劇を、プリマドンナのエリザが一心不乱に歌い演じる。
プロスペロ父子が船を疾走させ続けるのは、《赤き死》の幽霊船から聞こえてくるおぞましい歌に追われているためとされるが、実際にその声を耳にした者はほとんどいない。
制作期間2年!総力を結集して作り上げた意欲作
新作オペラのプロジェクトが始動したのは2023 年1 月。脚本の河野咲子とドラマトゥルクの伊藤靖浩を中心に、およそ1 年半にわたる継続的な勉強会・検討会を経て、エドガー・アラン・ポー「赤き死の仮面」を原作とするリブレットの制作に着手した。
「赤き死の仮面」は、感染症の蔓延する世界を舞台にした小説で、人間のエゴや恐怖が伝播する様を印象的な世界描写とともに酷薄に描き出した怪奇短編だ。河野咲子はこの原作小説をメタフィクショナルに扱い、様々なイメージやモチーフが散りばめられた巨大な客船の物語へと昇華した。その脚本に音楽をつけるのは、公募によって選ばれた作曲家の永井みなみ。国内で作曲家やオペラピアニストとしてキャリアをスタートさせたのち、ミュンヘンで劇音楽を学ぶ永井は、脚本家やドラマトゥルクと丁寧な協働を重ねながら、優れた構成力と豊かなテクスチャをもつ魅力的なオペラ作品を創り上げた。
上演にあたっては、藤原歌劇団や日生劇場などの本公演を指揮するほか、新国立劇場やびわ湖ホールなど国内の主要な劇場で副指揮やプロンプターの経験も豊富な鈴木恵里奈がタクトを執る。浜松市民オペラ《かぐや》、東京室内歌劇場《陰陽師》と、新作初演が続く鈴木の音楽づくりに注目だ。演出は、日本各地のプロダクションで演出・演出助手を務め、舞台への空間的なアプローチに定評のあるNQ主宰の吉野良祐。鈴木とは浜松市民オペラ以来の協働となり、さらに息の合った舞台作りが期待される。
若手実力派歌手らによる充実のキャスト陣

ヒロインのエリザを演じるのは、NQ主催公演において《ラ・ボエーム》ミミ役や《修道女アンジェリカ》タイトルロールなどを担い、ドラマチックな表現力ヘの評価が高い鈴木遥佳(14 時公演)と、《愛の妙薬》アディーナ役および《天国と地獄》ユリディス役での魅力的なキャラクターと響きの豊かな歌唱が記憶に新しい金沢貴恵(18 時公演)。プリモのプロスペロ—子は、本年5 月に新国立劇場主催公演でのソリストデビューも控える高橋拓真( 14 時公演)と、小澤征爾音楽塾をはじめ国内の数多くのプロダクションにひっぱりだこの注目の若手テノール西山詩苑( 18 時公演)が初登場する。原作小説「赤き死の仮面」の著者エドガー・アラン・ポーがモデルとなっているズボン役のポオは櫻井陽香( 14 時公演)と谷本雅(18 時公演)が、舞台となる巨大な客船の主プロスペロ—父は奥秋大樹が、それぞれ務める。脇を固めるキャストやアンサンブル陣も、NQ公演には欠かせないお馴染みの顔ぶれや、オーディションで新たに選抜された若手歌手を中心に、充実の座組となっている。スタッフは、大小さまざまなプロダクションを手がける舞台監督の小田原築(アートクリエイション)がはじめてNQ主催公演を担当するほか、演出家が信頼を寄せるプランナー/スタッフが集い、若い座組ならではの柔軟さとチームワークが、作品を理想的な世界初演へと導く。
注目の若手オペラカンパニー「Novanta Quattro」とは?

ーーオペラの新しい現在地へ
Novanta Quattro は、2022 年に活動を開始した新進気鋭のオペラ・カンパニー。1994 年生まれのメンバーを中心に旗揚げし、30 歳前後の若手の歌手やピアニスト、舞台スタッフによるオペラ公演を企画・制作する。オペラ作品がもつ本質的な価値を尊重しつつも、新しいアイディアと現代的な感性による上演を志向し、これまでに《ラ・ボエーム》《ジャンニ・スキッキ》《愛の妙薬》《修道女アンジェリカ》《天国と地獄》の上演を手掛けた。アーツカウンシル東京をはじめ多くの助成事業に採択されるなど、活動規模を広げつつあり、東京で最も注目される若手オペラ・カンパニーのひとつである。
各分野の実力派若手アーティストが創造する新作オペラ《船はついに安らぎぬ》。日本人の手による“怪奇オペラ”というジャンルの作品は、非常に珍しいと言えよう。この貴重な機会にぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
【公演概要】
Novanta Quattro #06
新作オペラ《船はついに安らぎぬ》
日時:2025 年6 月21 日(土) 14 時開演/ 18 時開演(2 公演)※開場は開演の30分前
会場:成城ホール[砧区民会館] 小田急線「成城学園前駅」徒歩4 分
入場料:[S 席(指定)] 5,500 円/[一般(自由席エリア)] 4,500 円/[学生(自由席エリア)] 3,500 円
チケット取扱い:
https://teket.jp/10490/46502
https://forms.gle/LfuDSwVuJuwubT7z8
作曲:永井みなみ
指揮:鈴木恵里奈
脚本:河野咲子
演出:吉野良祐
ドラマトゥルク:伊藤靖浩
キャスト:鈴木遥佳/金沢貴恵/高橋拓真/西山詩苑/櫻井陽香/谷本雅/奥秋大樹/東幸慧/北見エリナ/小林可奈/筒井絢子/竹内篤志/寺田穣二/森川知也/上田彩乃/鷹野景輔/山田健人/池澤真子/伊藤和奏/上原梨華子/大平遥菜/鈴木花安/田中未来/三神祐太郎/藤田魁人
ピアニスト:石川美結/佐藤響/小松桃
舞台監督:小田原築(アートクリエイション)
舞台監督助手:福島達朗
照明:芥川久美子(ライトシップ)
衣裳:相川治奈
メイク:徳田智美
演出助手:喜多村泰尚
制作:花岡香梨[統括] /柴田崇考/小林愛侑
広報:冨澤麻衣子/上原梨華子
主催・制作: Novanta Quattro
GrowthPartner :ARTORUS株式会社
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京[東京芸術文化創造発助成]/公益財団法人さわかみオペラ芸術振興財団みんなの寄付/公益財団法人朝日新聞文化財団
後援:公益財団法人せたがや文化財団
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