オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

鏡が描く“舞台と客席”の交点――OMF《夏の夜の夢》ゲネプロより

鏡が描く“舞台と客席”の交点――OMF《夏の夜の夢》ゲネプロより

2025年のセイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)が、8月11日(月・祝)から9月9日(火)までの30日間にわたり開催された。有料公演は6プログラム(9公演)で、最終日はキッセイ文化ホールでの「子どものためのオペラ」で幕を閉じた。


フェスティバルの中心に据えられた演目の一つは、サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)による、ブリテンのオペラ《夏の夜の夢》であった。同オーケストラによるオペラ公演は3年ぶりで、OMF首席客演指揮者沖澤のどかと、ロラン・ペリー(演出・装置・衣裳)による3公演。

本稿は、その《夏の夜の夢》の本番前に行われた、ゲネプロの写真取材に基づく記事である。なお、写真取材の範囲は、第1幕・第2幕である。

漆黒の舞台に灯る光点が、まるで蛍が飛び交う森を連想させる。点は児童合唱で、顔の部分だけが照らされて、浮かび上がって見えているのだ。舞台中央には、ハーミアが寝巻きでベッドに横たわっている。ほどなくして妖精のパック(フェイス・プレンダーガスト)が、空中を泳ぐように舞台上方から舞い降りてくる。続いて登場するオーベロン(ニルス・ヴァンダラー)とタイターニア(シドニー・マンカソーラ)も、上方から歌唱しながら現れる。冒頭から観客を驚かせ惹きつける、見事な幕開けである。

舞台全体は鏡張りで、それが非常に効果的に使われていた。背景に登場人物の背面が映って見えているというだけでなく、時には指揮者(沖澤のどか)やオ-ケストラの一部も写り込む。芝居と音楽との境界はそこで曖昧になり、舞台上のアクションが音の生成と重なって見える瞬間が生まれる。鏡面の反射によって、観客は「見る」と「聴く」とを一続きの出来事として知覚することが出来るのだ。

職人たち(ボトム:デイヴィッド・アイルランドクインス:バーナビー・レアフルート:グレン・カニンガムスナッグ:パトリック・グェッティスナウト:アレスデア・エリオットスターヴリング:アレックス・オッターバーン)の登場の仕方もユニークだ。彼らは暗がりの中、自転車にライトを灯し走らせて現れる。

四人の恋人たち(ライサンダー:デイヴィッド・ポルティーヨディミートリアス:サミュエル・デール・ジョンソンハーミア:ニーナ・ヴァン・エッセンヘレナ:ルイーズ・クメニー)が全員寝巻き姿というのも可笑しい。ここでも鏡の使い方が有効的である。同じ空間に“正面”と“裏面”を同居させ、誤解の連鎖と感情のズレを上手く可視化する。

第2幕で撮影を終え、第3幕は1階センター後方で鑑賞した。第3幕では、背面の鏡に客席までもが映り込む場面があり、舞台と客席との境界がさらに薄れていく。この日はOMFコンチェルト(ボランティア)と関係者が場内で見守り、ゲネプロとは思えない本番級の集中力が場内を満たした。それでいてアットホームな雰囲気も感じる。まるで家族の晴れの日を祝うような、どこか清々しい気配さえ流れていたように思う。

ブリテン:《夏の夜の夢》全3幕
原語(英語)上演/日本語字幕付き セイジ・オザワ 松本フェスティバル

日程
2025年8月17日(日)15:00
2025年8月20日(水)17:00
2025年8月24日(日)15:00

出演
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:沖澤のどか(OMF首席客演指揮者)
演出・装置・衣裳:ロラン・ペリー
照明:ミシェル・ル・ボーニュ
装置補:マッシモ・トロンカネッティ
衣裳補:ジャン=ジャック・デルモット
合唱指揮/副指揮:根本卓也

キャスト
オーベロン:ニルス・ヴァンダラー
タイターニア:シドニー・マンカソーラ
パック:フェイス・プレンダーガスト
シーシアス:ディングル・ヤンデル
ヒポリタ:クレア・プレスランド
ライサンダー:デイヴィッド・ポルティーヨ
ディミートリアス:サミュエル・デール・ジョンソン
ハーミア:ニーナ・ヴァン・エッセン
ヘレナ:ルイーズ・クメニー
ボトム:デイヴィッド・アイルランド
クインス:バーナビー・レア
フルート:グレン・カニンガム
スナッグ:パトリック・グェッティ
スナウト:アレスデア・エリオット
スターヴリング:アレックス・オッターバーン
児童合唱:OMF児童合唱団

2026年のOMFは8/16〜9/8開催予定。沖澤のどか指揮×サイトウ・キネン・オーケストラで、メシアン《トゥランガリーラ交響曲》に挑む。1949年世界初演、1962年日本初演、1967年小澤征爾の名盤へ続く系譜に、松本の一頁を重ねる。ソリストは務川慧悟(Pf)原田節(オンド・マルトノ)。このほか各種コンサートや教育企画も予定。詳細の発表を楽しみに待ちたい。

取材・写真:長澤直子
文:オペラ・エクスプレス編集部

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


COMMENT ON FACEBOOK

Return Top