オペラ・エクスプレス

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【公演レポート】大阪国際フェスティバル2015《ランスへの旅》

4月18日、大阪フェスティバルホールでロッシーニの《ランスへの旅》が上演されました。今年で第53回となる歴史ある音楽祭、大阪国際フェスティバルの幕開けを飾るに相応しい晴れやかな祝祭感に満ちた公演だったと思います。
名前がついている登場人物だけでも18人(今回は17人)、クライマックスには14重唱が控えるこのオペラの上演が至難なのは想像に難くありませんが、若い歌手たちやオーケストラが各々の実力を遺憾なく発揮した素晴らしい公演でした。

大阪国際フェスティバル2015《ランスへの旅》より

大阪国際フェスティバル2015《ランスへの旅》より

その公演の成功の立役者であり主役であり縁の下の力持ちでもあったのが、指揮のアルベルト・ゼッダです。『若い日に、ロッシーニと出会い恋に落ちた』講演会やインタビューなどでそう語っているマエストロの指揮は、今もその若き日の恋に生きているかのように、今年87歳とは信じられない若々しさと躍動感に溢れています(指揮台で、文字通り飛びはねている!)。歌手たちの個性を引き立たせ自由闊達に歌わせながら、いざ山場にかかると全体の手綱を引き締め、一気にクライマックスに駆り立てていく集中力と牽引力。まさに巨匠の至芸であり、ロッシーニの世界に身も心も酔わせてくれます。

指揮:アルベルト・ゼッダ

指揮:アルベルト・ゼッダ

歌手たちは、ペーザロのアカデミア・ロッシニアーナ出身の4人の外国人ソリストを含め、合唱に至るまで高い水準の実力者が揃っていました。ホテルの女主人コルテーゼ夫人を歌った石橋栄美は優れたテクニックと明るい美声で、要所要所で存在感を発揮。フォルヴィル伯爵夫人のイザベラ・ガウディもパワーと輝きのある声で、ハイEs(ミ♭)に及ぶ華麗なアジリタを披露していました。メリベーア侯爵夫人のターチャ・ジブラッゼは深みのある美声と迫力あるアジリタが印象深く、その恋人リーベンスコフ伯爵のアントン・ロシツキーはやや荒削りながら輝かしい声の正統派テノールで、二人のデュエットは聴きごたえがありました。ロシツキーは一瞬でしたがハイE(ミ・ナチュラル)も披露。
また、満を持しての登場と最後の即興詩で場をさらったコリンナの老田裕子は、美しい声とメッサ・ディ・ヴォーチェ(音を出しながらなめらかに強弱を増減するテクニック)を駆使してたっぷりと聞かせ、堂々たる存在感でした。騎士ベルフィオーレの中川正崇との軽妙な二重唱も、達者な演技で笑いを誘っていました。
シドニー卿のクラウディオ・レヴァンティーノ、ドン・アルヴァーロの木村孝夫、トロンボノク男爵の三浦克次、ドン・プロフォンドの伊藤貴之、一つのオペラの中にこれだけの男声低声陣が登場するのも珍しいですが、埋没することなくそれぞれに魅力を発揮していました。中でもドン・プロフォンドの「他に類のないメダル」は、各人の荷物の目録を早口で並べ立てる楽しいアリアで、自然で明瞭なイタリア語にコミカルな演技も相まって素晴らしかったです。その他の歌手たちも小さな役に至るまで、はっとするような美声や存在感を競い合い、一日限りの上演なのがもったいない充実ぶりでした。

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それぞれのソロも素晴らしかったですが、やはり醍醐味は数々の重唱です。特にコリンナ登場の場の6重唱と、クライマックスの14重唱は圧巻。ロッシーニの重唱においては違う歌手が同じメロディを繰り返すことも多く、それぞれの力量の差がはっきりと分かってしまうのが怖いのですが、今回は歌手たちの気迫と技巧と声が高い水準で拮抗し、眼福ならぬ耳福でした。

大阪国際フェスティバル2015《ランスへの旅》より

大阪国際フェスティバル2015《ランスへの旅》より

装置と衣裳、演出は過不足なくオーソドックス。現代の南欧風リゾート地を思わせるシンプルながら簡素過ぎない舞台装置に、衣裳も演出も奇をてらったところは一つも無く、過剰さが目についたり、逆に簡素過ぎて興を殺がれることがなく、音楽に集中することができました。これは重要かつ意外と難しいことではないかと思います。

ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と若手中心の合唱(フェスティバル・シンガーズ)は、マエストロの指揮に集中力高く応えていました。フェスティバルホールは初めてだったのですが、1階最後方の2階席が被っている座席位置にも関わらず、歌もオーケストラもバランスよく響いてきました。客席はほぼ満員で、終演後には割れるような喝采とカーテンコール。舞台上にずらりと並んだ演奏者たちとその中央で満面の笑顔を浮かべていたマエストロ・ゼッダ、オーケストラ、聴衆のすべてが幸福な魔法を共有した一日でした。

文・井内百合子/reported by Yuriko Inouchi  photo: Naoko Nagasawa


2015年4月18日(土)15時開演
大阪フェスティバルホール

指揮:アルベルト・ゼッダ
演出:松本重孝

出演
コリンナ(ローマの女流即興詩人):老田裕子
メリベーア侯爵夫人(ポーランドの未亡人):ターチャ・ジブラッゼ
フォルヴィル伯爵夫人(ファッションに夢中なフランスの未亡人):イサベラ・ガウディ
コルテーゼ夫人(ホテル黄金百合亭の女主人):石橋栄実
騎士ベルフィオーレ(フランスの若き士官で色男):中川正崇
リーベンスコフ伯爵(メリベーア侯爵夫人に恋するロシアの将軍):アントン・ロシツキー
シドニー卿(コリンナに恋するイギリスの陸軍大佐):クラウディオ・レヴァンティーノ
ドン・プロフォンド(骨董マニアの文学者):伊藤貴之
トロンボノク男爵(音楽を愛するドイツの陸軍少佐):三浦克次
ドン・アルヴァーロ(メリベーア侯爵夫人を恋い慕うスペインの提督):木村孝夫
ドン・プルデンツィオ(湯治場の医者):西村圭市
ドン・ルイジーノ:(フォルヴィル伯爵夫人のいとこ):松原友
デリア(コリンナが面倒をみている孤児):高嶋優羽
マッダレーナ(ホテルの女中頭):尾崎比佐子
モデスティーナ(フォルヴィル伯爵夫人の小間使い):田邉織恵
ゼフィリーノ(使者):谷浩一郎
アントーニオ(ホテルの支配人):田中勉

ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団
「ランスへの旅」フェスティバル・シンガーズ

主催:朝日新聞文化財団、朝日新聞社、フェスティバルホール、大阪国際フェスティバル協会、大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス、日本オペラ振興会(藤原歌劇団)、ニッセイ文化振興財団、東京フィルハーモニー交響楽団
特別協賛:大和ハウス工業
協賛:朝日放送、竹中工務店、ダイキン工業
後援:在大阪イタリア総領事館、イタリア文化会館-大阪
協力:ペーザロ・ロッシーニ・オペラ・フェスティバル(アカデミア・ロッシニアーナ)
監修:アルベルト・ゼッダ

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