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極上のエンターテインメント・オペラ!滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールの《竹取物語》公演

びわ湖ホール《竹取物語》 © Naoko Nagasawa (OPERAexpress)
琵琶湖畔に建つびわ湖ホールは美しい景観とオペラに最適な劇場機構をあわせ持ち、初代芸術監督に若杉弘、そして2007年からは沼尻竜典が芸術監督を務め、関西から優れたオペラ文化を発信しています。その沼尻氏が書いた初めてのオペラがこの《竹取物語》。2014年1月に横浜みなとみらいホールの委嘱により初演され、その時は演奏会形式での上演だったので日本における舞台上演は今回が初めてとなります。(2015年2月にはベトナムのハノイでも舞台上演されました。)

東京から日帰りで行きましたが、この日は8月らしい快晴で、びわ湖ホールの総ガラス張りのロビーは日差しが眩しかったです。ゆったりとした気分でオペラを鑑賞出来る幸せを感じました。上演は中ホールで二公演、両日とも完売だったそうです。

オペラは幕で分けるのではなく全五景からなっており、第三景(五人の求婚者達の場面)が終わった所で休憩が入ります。後半は帝の登場の場面からでした。会場の掲示によると前半が50分、後半が45分とのことです。

ピットにマエストロが登場すると大きな拍手が沸き起こり、流麗な音楽が始まります。舞台前には紗幕があり、鈴のような音色に合わせてそこに光が瞬きます。やがて紗幕に緑の竹が映されて物語が始まりました。

栗山昌良の演出は、日本の伝統芸能の所作を巧みに使い、静謐な〈栗山美学〉を徹底して追求したもの。まず竹取の翁と媼が登場しますが、暗い舞台で下手と上手に別々に立ち正面を向いています。二人の会話もその場を動かずに交わされます。全体が明るくなると、蒔絵のような美術、登場人物達の出入りの廊下が上下(かみしも)にあり、舞台中央は踏むと音が響く床板が置かれています。登場人物達の演技は、それぞれの役割を反映した象徴的なアプローチでした。照明と映写が美しく、また後半に出て来る殺陣や月の天女達の振付けが良かったです。
びわ湖ホール《竹取物語》 © Naoko Nagasawa (OPERAexpress)
日本最古の物語と言われている「竹取物語」。「源氏物語」にも出て来るというこのお話はしかし、今読んでみるとその新しさに驚かされます。竹から生まれて三ヶ月で育った絶世の美女は、並みいる求婚者達をはねつけ、最後には帝にも望まれますが、それも断り月の世界に帰って行く。沼尻の《竹取物語》の特徴は、この原作に出来る限り忠実に書かれていることです。台本から感じるのは、可愛がられて育ち、愛する人が出来るまでは男たちの気持ちも理解せず、ついに心を通わせる相手と巡り会うけれどもやがては別の世界に去って行く…というある〈女の一生〉です。台詞と歌が交互に出て来るジングシュピールの形を持ち、台本の言葉遣いが完全に現代の口語調なので特に身近な物語に感じたのかもしれません。

このオペラの最大の魅力はその音楽です。「昭和の歌謡曲的」と作曲者自身が言う耳馴染みが良く誰もが口ずさめそうなメロディーに溢れていますが、それだけでなく全体の構造やオーケストレイションは巧みで多彩です。翁と媼が代表する世界は素朴な懐かしい音楽、求婚者達は派手で娯楽的な音楽、かぐや姫と帝との愛は官能的な音楽、そして月の世界は不思議な色彩に満ちた音楽と書き分け、前半の最後に出て来る「君が代」のテーマや、かぐや姫と帝が出会う場面の《トリスタンとイゾルデ》の音楽への言及のように、はっきりそれと解る部分もそうでない部分も含めて、このオペラ全体がいわば〈オペラ〉という芸術へのオマージュのような作りになっているのです。オペラ好きな観客にとってこれはたまりません。

今回出演した歌手では、初演からかぐや姫を歌っている幸田浩子が澄んだ声、安定した歌唱に加え、個性を生かした存在感で素晴らしかったです。帝役を歌った与那城敬は気品のある容姿と雰囲気も良かったですが、叙情的な歌も堪能しました。翁の清水良一は朴訥さ、媼の永井和子は女らしさのある演唱。求婚者達では、石作皇子と大将の二役を歌った小堀勇介はリリコの美声、庫持皇子の大山大輔と阿倍御主人の宮本益光は男の色気が光る演技、大伴御行の晴雅彦はこのオペラのアクセントとなる役柄を巧みに表現して素晴らしかったです。月よりの使者を歌った中島郁子は声量のある美声が聴きごたえありました。石上麻呂足の近藤圭や職人達の面白いアンサンブルを聴かせた西垣俊朗、二塚直紀、松原友、相沢創、迎肇聡、服部英生も秀逸。石上麻呂足の使者役の子供(大津児童合唱団所属)も素直な歌で良かったです。

沼尻指揮の日本センチュリー交響楽団は巧みな演奏。作曲者自身が指揮をしているのでテンポは申し分無いですし、日本や様々な国のエキゾチックな響き(拍子木とか、天竺の話の時に出て来るシタールとか)も面白かったです。びわ湖ホール声楽アンサンブルの歌は華がありました。

帝が不死の薬を富士山で燃やす場面の後、フィナーレでは地上に残った人々が全員で、帝とこの国、そして月の世界の一層の繁栄を願う「弥栄三唱」を唱え幕を閉じます。かぐや姫が残した思い出は皆の心にいつまでも残ったに違いありません。

日本語のオペラですが、字幕があったのは助かりました。(日本語と英語。日本語の字幕は歌の部分のみ)。終演後は出演者の皆さん、そして沼尻氏にも大きな拍手が寄せられました。
(所見:8月9日)
びわ湖ホール《竹取物語》 © Naoko Nagasawa (OPERAexpress)
文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photograph:Naoko Nagasawa


歌劇《竹取物語》全5景

公演日:2015年8月8日(土)・9日(日)14:00開演
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール

作曲・台本:沼尻竜典
原作:「竹取物語」(作者未詳)

指揮:沼尻竜典(びわ湖ホール芸術監督)
演出:栗山昌良
振付:小井戸秀宅

装置:鈴木俊朗
照明:原中治美
衣裳:岸井克己
音響:小野隆浩(公益財団法人びわ湖ホール)

舞台監督:菅原多敢弘

キャスト:
かぐや姫:幸田浩子
翁:清水良一
媼:永井和子
帝:与那城敬
石作皇子/大将:小堀勇介
庫持皇子:大山大輔
阿倍御主人:宮本益光
大伴御行:晴 雅彦
石上麻呂足:近藤圭
月よりの使者:中島郁子
職人:西垣俊朗、二塚直紀、松原友、相沢創、迎肇聡、服部英生

合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル
管弦楽:日本センチュリー交響楽団(コンサートマスター:後藤龍伸)

主催:公益財団法人びわ湖ホール

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