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【インタビュー】市原愛 デビュー・アルバム「歌の翼に」―――市原さん自身が“鳥”と“翼”をキーワードに曲を集め

ソプラノ歌手、市原愛さんのデビュー・アルバムがオクタヴィア・レコードから発売になりました。市原さんといえば、随分前からオペラやコンサートで一流の活躍をしている方なので、これが初めてのCD録音というのは意外な感じがしました。タイトルは「歌の翼に」。市原さん自身が“鳥”と“翼”をキーワードに曲を集めたアルバムだそうです。

印象的な早坂文雄の無伴奏歌「うぐひす」から始まり、ラモー、メンデルスゾーン、クララ・シューマン、グリーグ、アーン、オヴァーレ、武満徹、コーツ、プッチーニ、そして最後にリストと、世界中から集まった曲は、磨き抜かれた歌声によってそれぞれの持つ意味が際立ち、大変に聴きごたえがあります。

市原さんにこのアルバムについてのお話を伺いました。
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Q: CD発売、おめでとうございます。市原さんのこれまでのご活躍から考えると、これがデビューCDとは不思議な程です。満を持してと言うか、CDを出すのをずいぶんお待ちになったんですね?

A: 実はオクタヴィア・レコードさんからレコーディングしませんか、というお話を頂いたのは2年程前だったんです。でもCDを作るとなったら、その限られた時間の中に何の曲を入れていくかを考えなくてはなりません。自分なりのコンセプトを持って説得力がある内容にしたかったですし、入れたい曲がたくさんあって、それを決めるのにとても時間がかかってしまったんです。

Q: 市原さんならドイツ歌曲集、もしくはオペラ・アリア集などでもおかしくなかったと思うんですが、この、“鳥”をテーマにするというのはとても素敵なアイディアですね。

© Naoko Nagasawa__3287A: “鳥”をテーマにした曲は意外とたくさんあるんです。やはり鳥の声を模倣したような旋律は低い声よりも高い声のために書かれたものが多いですし。中でも技巧的な曲で好きな曲が多くあって、私のリサイタルでもそのような曲を歌う機会があり、いつのまにか“鳥”にまつわるレパートリーが集まって来ていたんです。CDを作ることを考えた時に、私はドイツの曲を専門に勉強して来たので、ドイツ歌曲のCDを、というのはやはり一番に考えた事でした。でも、より多くの方に聴いていただく為にはオペラ・アリアを入れたいな、という考えもあり、自分の声の可能性を聴かせる為にも、ジャンルにこだわらずに“鳥”というテーマにしてしまおうと決め、色々な曲を選んでいきました。

Q: “鳥”にまつわる素敵な曲がこんなにたくさんあるんですね。

A: 結構あるんですよね(笑)。中には録音が少ない曲もあります。例えばイギリスの作曲家コーツの「夕べの鳥の歌」などは珍しいと思います。この曲はピアニストの丸山滋さんが持って来てくれた曲なんです。私が“鳥”をテーマにしようと思っていますと伝えたら、「実は自分もこういう曲がやりたかった」といって教えて頂いたんです。

Q: 選曲で気をつけた点はありますか?

A: “鳥”をテーマにすると雰囲気が似てしまう場合もあるので、そこは注意しながら選曲しました。あまり退屈にならないように。

Q: 二曲目はラモーの《イッポリトとアリシ》から「恋する鶯、わたしたちの声に答えて」。このアリア、とても美しいですね。オペラ全曲が聴きたくなります。市原さんの声にもぴったりですね。

A: 日本ではラモーのオペラはなかなか上演の機会が無いのが残念ですね。私は、ドイツでは「プラテー」に出演した事があります。

Q: 技巧的なところも聴きごたえがあるし、ピアノも感じが出ていて素敵でした。ピアノの丸山さんとの共演はもう長いのですか?

A: はい。私はドイツ歌曲をヘルムート・ドイチュ先生に習っていたんですが、それよりもずっと前に丸山さんも同じドイチュ先生にミュンヘン音楽大学で師事していらっしゃったんです。同じ東京藝術大学の先輩でもありますし、そういうご縁がありまして。

Q: アルバム全体の中で最初と、ちょうど真ん中あたりにある日本歌曲が重要な位置を占めていますね。特に武満徹作曲の四曲は、どうやって選ばれたんですか?

© Naoko Nagasawa__3273A: 私に合っている曲、ということで選んだ四曲です。あとは聴いていて「何か懐かしいな」と思ってもらえる曲がいいな、という事もありました。武満徹さんのこれらの歌曲は作曲家自身のピアノ伴奏譜が存在しないんです。例外は「うたうだけ」という曲で、こちらは歌もピアノも武満さんが作曲していますが、それ以外の三曲はピアノ譜がありません。いつも一緒に演奏する丸山さんがアレンジしてくれました。

Q: 「死んだ男の残したものは」という曲は何と言うか、ドラマチックで深刻な曲ですね。

A: それは反戦歌なので。かなり内容は強烈ですね…

Q: でも、こういう曲が入っていて聴けてよかった、と思いました。技巧的な素晴らしさだけでなく、それぞれの曲に歌の魂がこもっていると思ったんです。個人的に思い入れのある曲、というとどれになりますか?

A: そうですね、選ぶのが難しいですけれども… どうしてこの曲が入っているのかな?と思うのが、最後のリスト「おお、愛しうるかぎりを愛せ」かも知れませんね。曲のタイトルも“鳥”や“翼”に関わるものではありませんし。これは曲目解説で小宮正安先生も書いてくださっていますが、メンデルスゾーンの「歌の翼に」の前奏と、リストの「愛の夢」の前奏はまったく一緒なんです。リストはこの曲を書く時にメンデルスゾーンの「歌の翼に」を絶対意識していたというのが分かるので、ちょっとそういう裏の意味も込めて。

Q: 「歌の翼に」への言及、という意味で?

A: そうですね。後は、この曲はどうしてもピアノ曲「愛の夢」として有名なのですが、オリジナルはこの歌曲なので、それを聴いて欲しい、という意地みたいな気持ちもありました(笑)。それに、最後はやはりドイツ・リート(ドイツ歌曲)で終わりたかったですし。

Q: ドイツ・リートと言えば、メンデルスゾーンの「歌の翼に」と、クララ・シューマン「たおやかな蓮の花」が入っていて、両方とも何というんでしょうか、ちょっと神秘的だし色気もあって。

クララの曲もあまりレコーディングしている方はいないと思います。やはり、ロベルトと比べると曲の完成度はそこまでは高くないのかも知れませんし、前奏から後奏まで、どっぷり自分の世界に浸ってしまうところが、女性の作曲家だなぁと感じますね。男性にはかなり歌いにくいのではないかしら。

Q: だからこそ、女性ならではの雰囲気があっていいな、と思いました。

A: 女性作曲家の作品だけ集めたコンサート、などもいつかやってみたいですね。アルマ・マーラーにも面白い曲があるんですよ。

Q: オペラの出演もあるしオーケストラと共演するコンサートにもたくさん出演なさっていますが、ご自分の中ではどのように歌曲と向き合っていらっしゃるんですか?

© Naoko Nagasawa_3270A: リサイタルがあると、できるだけドイツ・リートをたくさん入れたい、と思うんです。それから、最近のコンサートでリヒャルト・シュトラウスの「四つの最後の歌」を歌う機会があって、シュトラウスはやはりミュンヘン出身の作曲家ですし、私はミュンヘンに住んでいたのでとても思いが強く、シュトラウスの作品はずっと歌っていきたいと思っています。

ドイツ・リートは詩をとても大切にして、言葉と音楽をどう結びつけていくかという細かい作業が魅力です。そしてドイツ・リートの場合は歌手だけではなくピアニストもとても重要で、私はもともとピアノをやっていましたので、ピアニストとのアンサンブルに面白さを感じるんです。

Q: このCD収録で使用したピアノは?

A: ベーゼンドルファーです。

Q: 大変よかったです。音に深みがあるというか。ドイツ歌曲によく合いますが、それだけではなく様々な曲にあった音色が収録されていますね。

A: やはり違うなぁ、というのは私もすごく感じました。音色の事は、ピアニストの丸山さんのテクニックが大きいと思います。

Q: 歌曲のリサイタルはご予定がありますか?

A: また、ぜひやりたいと思っています。年末そして2016年は今のところオーケストラと共演するコンサートの予定が多いですが。

Q:  曲目解説の中に「鳥類はわれわれの遊星上に存在する、おそらくは最大の音楽家である。」というメシアンの言葉が紹介されていました。実際、このCDを聴いてみて〈歌〉の力をとても感じました。このCDには市原さんの〈歌〉に対する思いがこもっているんでしょうか?まだお若いのにすでに本当に素晴らしい歌を歌われていると思いますが、これから先にどういうアーティストになりたいですか?

A: そうですね… 私には娘がいて、今、2歳と7ヶ月になったところです。彼女は毎日毎日、私の練習を聴いています。娘にとっては、うるさくていい迷惑かもしれないですけれども(笑)。それで娘自身も一日中すごく大きな声で歌うんです。たぶん、真似しているんだと思うんですが。親としてはかわいいな、嬉しいなというのがあります。ただ真似しているだけで歌は酷いんですけれどもね(笑)。

〈歌〉には歌詞がありますが、その歌詞がただ言葉でしゃべるだけではなくて、やはり音程がついてリズムがついていることによって、より情感がこもって伝わると思います。まだ言葉がきちんと分からない子供にとっても、何だか楽しい、何だか素直に受け入れられる、ということがあると思うのです。そういう娘を見ていて、まだ純粋な心を持っている小さい子供たちに、本物の音楽、歌を聴かせていけたらいいな、と思います。小さい子供たちが全員、音楽家になって欲しいというのではなくて、歌を聴くということ、そういう世界を皆に経験して欲しいと思うんです。楽しいな、面白いな、という感情よりももっと自然に、何だか分からないけれどもいいな、と子供たちに伝わったらいいですね。

Q: 音楽の中でも子供は歌が大好きですよね。

A: そうですね。

Q: 素晴らしい環境の中で歌を育てていってください。今日はどうもありがとうございました。

インタビュー・文:井内美香 / photo: Naoko Nagasawa


歌の翼に

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市原愛(ソプラノ)
丸山滋(ピアノ)
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早坂文雄:うぐひす
ラモー:恋する鶯、わたしたちの声に答えて
メンデルスゾーン:歌の翼に
クララ・シューマン:たおやかな蓮の花
グリーグ:秘密を守るナイチンゲール
アーン:わが詩に翼あったなら
オヴァーレ:青い鳥
武満徹:翼(丸山滋編)、うたうだけ、
死んだ男の残したものは(丸山滋編)、
小さな空(丸山滋編)
コーツ:夕べの鳥の歌
プッチーニ:ドレッタの美しい夢(歌劇「つばめ」より)
リスト:おお、愛しうるかぎりを愛せ

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