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【公演レポート】日生劇場《ドン・ジョヴァンニ》―――現代に生きる等身大のヒーローの姿とは?自由奔放な若い貴族、ドン・ジョヴァンニ

日生劇場の《ドン・ジョヴァンニ》に行ってきました!若手歌手達の身体能力の高さを生かした演出で、ドン・ジョヴァンニという人物の魅力が際立った公演でした。
© Naoko Nagasawa (OPERAexpress)_9058
《ドン・ジョヴァンニ》の初日は11月14日(土)、朝起きたらパリの同時多発テロ事件が起こっていたあの日です。東京には細い雨が降っており、その中を劇場に向かいました。日比谷公園の向かい側にある瀟洒な日生劇場も自分の気持ちを反映してか少し陰って見えましたが、劇場に入ってしまえば公演に集中することができました。

日生劇場は今回の《ドン・ジョヴァンニ》と同じ広上淳一指揮、菅尾友演出で2012年に《フィガロの結婚》を上演しています。《ドン・ジョヴァンニ》は一般に公開された公演はそれぞれ別のキャストで一回ずつでしたが、その前には学校公演もあったそうです。チケットは両日とも早くから売り切れでした。

開演時間になるとまずマエストロがピットに登場し、その後でチューニングがありました。そしてあの宿命的な序曲が始まります。曲の後半に幕が開くと、舞台には手摺りのついた大きな階段がいくつか交差して置かれています。中央部が廻り舞台になっており、場面と音楽の変化によって舞台袖から出ている別の階段へ繋がったり、繋がりが断ち切られたりします。お芝居が進むにつれて廻り舞台による階段の動きはだんだんせわしない感じになっていきます。登場人物達はこの階段を駆け昇ったり、手すりをくぐって別の階段に移動したりを頻繁に繰り返しながら歌ったり演じたり。菅尾友の演出は、何か問題を起こしては逃げていくドン・ジョヴァンニを人々が追いかけようとすると、階段の繋がりが切られてしまう、というように、人間模様が階段の動きで巧みに表現されていました。
© Naoko Nagasawa (OPERAexpress)_7819
オペラ冒頭部分でドンナ・アンナがドン・ジョヴァンニを追いかけて舞台に登場しますが、ドン・ジョヴァンニがキラキラ光るものを空中に撒き散らすと彼女は催眠術にかかったようになって彼の腕に抱かれてしまいます。そこに現れた騎士長は、自分が持ってきたピストルでドン・ジョヴァンニに撃たれ階段の途中に斃れますが、しばらくすると自分で静かに起き上がり、舞台奥にある暗い階段の方に昇っていきます。劇の進行の途中でも騎士長は何度か登場し、ドン・ジョヴァンニが犯すさまざまな悪行を見つめていました。

第一幕終わりのドン・ジョヴァンニの館での宴でそれぞれが動物のマスクをつけるのも「化かし合い」の感じが出ていて面白かったです。相当な高さがある階段の端がばっさり切れていて、そこで激しい演技をする歌手達を観ているのは心臓に悪いのですが、それも演出効果に含まれているのでしょう。最後の〈地獄落ち〉も〈階段落ち〉になっていました。

登場人物たちは時代が特定しにくいファンタジーの要素が入った服装をしています。ドンナ・エルヴィーラが持つ傘や旅行鞄などは現代的ですが、衣裳は時代物的な要素もありました。ドン・ジョヴァンニは丈の長い鮮やかな青い上着を着ていて、その他の登場人物たちは白っぽい服の足元の方に青いぼかしが入っています。青は欲望の色なのでしょうか?

このような象徴的な要素がある演出でしたが、歌もアクションも巧みな若手の歌手達によってエネルギーと魅力がある仕上がりになっていました。中でもタイトルロールのドン・ジョヴァンニを演じた加耒徹が、激しいアクションをこなしながら社会のルールに挑むドン・ファンを颯爽と演じ、そして音楽的にも大変充実していました。レチタティーヴォの部分も声の音色や歌い回しからドン・ジョヴァンニの性格がくっきりと伝わり、またツェルリーナとの二重唱、シャンパンの歌、セレナーデ「窓辺においで」なども音楽的に正確なだけでなく歌の表現も大変立派でした。ドンナ・アンナ役の中江早希は澄んだ高音でアンサンブルでもよく声が通り、また第二幕のアリアはしっかり構築されて聴きごたえがありました。

ドン・オッターヴィオの金山京介は美声で音楽的。今回の上演では第一幕のアリア「彼女の幸福こそ私の願い Dalla sua pace la mia dipende」のみで第二幕の「私の恋人を慰めて下さい Il mio tesoro intanto」はカットされていました。ドンナ・エルヴィーラの林美智子は情熱的な演唱、レポレッロの久保田真澄はイタリア語が鮮やか。騎士長の斉木健詞は立派な声と演技でした(ドン・ジョヴァンニの館を訪れる場面では声に音響のエコーが強くかかっていました)。ツェルリーナの見角悠代は魅力たっぷりの演技。マゼットの枡貴志は声と歌が素晴らしかったですし、演技も良かったです。今回の上演にはまた、通常はカットされる第二幕のツェルリーナとレポレッロの珍しい二重唱が採用されていました。

広上淳一指揮の読売交響楽団は堂々とした音楽作り。モーツァルトならではの古典派の響きが素晴らしかったです。第一幕のフィナーレや、第二幕のレポレッロが追い詰められる場面の6重唱などはゆったりめのテンポで重厚感を出していました。チェンバロの平塚洋子もエレガントでした。
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文・井内美香 reported by Mika Inouchi / photograph:Naoko Nagasawa


《ドン・ジョヴァンニ》

全2幕 原語イタリア語上演(日本語字幕付)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
作曲:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
2015年11月14日(土)、14日(日)14:00開演
日生劇場

スタッフ:
指揮:広上 淳一
演出:菅尾 友

管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:C.ヴィレッジシンガーズ

美術:杉山 至
照明:吉本有輝子
衣裳:堂本教子
映像:須藤崇規

ドラマトゥルク/字幕:長島 確
演出助手:喜田健司
舞台監督:幸泉浩司

合唱指揮:田中信昭

チーフ音楽スタッフ:田島亘祥
副指揮:鈴木恵里奈、水戸博之、喜古恵理香、杉原直基、田尻真高

コレペティトゥア:平塚洋子、矢崎貴子

キャスト:
ドン・ジョヴァンニ:加耒 徹(11/14) 池内 響(11/15)
騎士長:斉木健詞(11/14)峰 茂樹(11/15)
ドンナ・アンナ:中江早希(11/14)宮澤尚子(11/15)
ドン・オッターヴィオ:金山京介(11/14)望月哲也(11/15)
ドンナ・エルヴィーラ:林 美智子(11/14)柳原由香(11/15)
レポレッロ:久保田真澄(11/14)青山 貴(11/15)
マゼット:桝 貴志(11/14) 金子亮平(11/15)
ツェルリーナ:見角悠代(11/14)鈴木江美(11/15)

チェンバロ:平塚洋子
マンドリン:青山忠

主催・企画・制作:日生劇場【公益財団法人ニッセイ文化振興財団】
助成:芸術文化振興基金、公益財団法人ロームミュージックファンデーション、公益財団法人花王芸術・科学財団、公益財団法人朝日新聞文化財団
後援:東京都、一般財団法人東京私立中学高等学校協会
協賛:日本生命保険相互会社

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