オペラ・エクスプレス

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《ナクソス島のアリアドネ》のゲネプロが行われました———”二本の導きの糸”「芸術家が抱える問題」「変容」はどう視覚化されるのか?

11月21日(月)、二日後に開幕を控えた東京二期会公演「ナクソス島のアリアドネ」のゲネプロが報道関係者を対象に、公演会場の日生劇場にて行われた(キャストは23日&26日組)。
東京二期会オペラ劇場《ナクソス島のアリアドネ》より
先日の記者会見で演出のカロリーネ・グルーバーが語った”二本の導きの糸”、つまり「芸術家が抱える問題」「変容」はどのように実際の舞台に置き換えられているのか、東京・大阪での客演も好評で迎えられたシモーネ・ヤングのオペラ指揮はどうだろうか、そしてなにより歌手陣の仕上がりはどうだろうか?さまざまな観点から注目を集める舞台はこの日、ついにその姿を見せた。

プロローグは地下の駐車場からそのままつながったエントランス・スペースを楽屋として展開される。二組の芸術家たちが部屋とも言えない場所に通されて、待遇は明らかに悪いのだ。このオペラでは、彼らを招いた富豪の気まぐれで酷く振り回されることになるのだが、この演出ではそれ以前にせいぜいが”使用人”として扱われる芸術家たちが示される。
ふたつのグループがまるでジェッツとシャークスのようにことあるごとに衝突するプロローグでは、歌わない黙役が存在感を示している。登場人物たちは常に誰かに見てられている、だから語られる言葉が本心なのかその場に合わせているだけなのか、にわかには判断できない。そのようにして興味を後半のオペラに向けて高めていく手腕には感心するしかない。また、その状況を強調することで、ふたりだけの会話がより親密なものとして示された場面は強く印象に残った。

後半のオペラは、劇中の設定どおり来客を交えた夜会の席で展開され、具象的な「荒れ果てた島」の描写はない。この舞台では聴衆は、いわば富豪に招かれた客としてオペラを見守ることになるのだ。テセウスに去られたアリアドネは前方の席に伏して泣き続ける、オペラ・ブッファ組はカウンターにたむろして出番を伺う。そうした布置から始まるオペラは自らの死だけを望むアリアドネを、ほかの登場人物たちが思いとどまらせようとお話は進み、バッカスが登場して彼女の心を変えて、と展開するわけだが、グルーバーが重視する「変容」は一筋縄ではいかない。フィナーレに向かって音楽が美しく高揚する中、舞台にはそれまでの流れとはまた別の仕掛けが施されている。それを幕が開く前に説明してしまっては興ざめなので、多くを語るのは控えよう。

東京二期会オペラ劇場《ナクソス島のアリアドネ》より

東京二期会オペラ劇場《ナクソス島のアリアドネ》より アリアドネ:林正子
(C) Naoko Nagasawa


ライプツィヒ歌劇場との提携によって実現した今回の舞台は、いま現在の舞台らしく情報量が多く細部まで趣向が凝らされている。グルーバーの目配りの利いた演出は見どころも多く、聴衆の興味を最後の最後まで上手く惹きつけるものだ。そしてシモーネ・ヤングの指揮は先日聴いた東京交響楽団とのコンサートよりも自然な、迷いのないものだ。日本では珍しい馬蹄形の客席の日生劇場は今風の残響豊かな会場ではないけれど、声もオーケストラの音もきっちりと聴き取れるので、歴史あるこのホールはこの室内楽的なオペラを聴くには最適の会場なのかもしれない。
通しで上演したとはいえ、リハーサル歌手の出来をどうこう言うことはできないのだが、舞台上の演技、そして随所に見られる繊細な表情付けは相当に突き詰められたものだ。そしてシモーネ・ヤングが語ったとおりの室内楽的サウンドを東京交響楽団から引き出していた、彼女の本領はやはりオペラなのだろう。舞台の進行を力強くリードするその指揮は、先日までのオーケストラへの客演とはまた違う魅力的なものだった。10月下旬からのリハーサルで相当に作り込まれた東京二期会の「ナクソス島のアリアドネ」は、22日にもう一組のキャストでゲネプロを行い、23日に開幕する。その時、数々の注目公演があるこの冬の中でも、最も注目されるべき舞台がいよいよその真価を現すのだ。

取材・文:千葉さとし(ライター) reported by Satoshi Chiba / photo: Naoko Nagasawa



東京二期会オペラ劇場 NISSAY OPERA 2016 提携
《ナクソス島のアリアドネ》
プロローグと1幕のオペラ
日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
台本:フーゴー・フォン・ホフマンスタール
作曲:リヒャルト・シュトラウス
会場:日生劇場
公演日:
2016年11月23日(水・祝) 17:00
24日(木) 14:00
26日(土) 14:00
27日(日) 14:00

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