オペラ・エクスプレス

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歌唱,ドラマ,ダンス,映像・・・川端康成の小説を多面的に再構築———オペラ《眠れる美女》

12月7日、東京文化会館にてオペラ「眠れる美女」の舞台稽古が報道関係者に公開された。最初の通し稽古とのことで、この稽古の後も開幕まで調整を続けるとのことではあったが、この時点でも相当に刺激的な舞台ができあがりつつある、と確信させられる舞台が大ホールに現出した。
《眠れる美女》舞台稽古より
川端康成の小説「眠れる美女」を原作とし、演出のギー・カシアス、作曲のクリス・デフォートらにより歌と演技と舞踊を伴う”オペラ”として2009年にブリュッセルのモネ劇場で初演されたこの作品は、実に不思議な作品だ。川端の小説は主人公の江口が、薬で眠らされた若い女性との交流のない一夜を触媒として想念を展開させるものだ。ではその作品をどう”オペラ”に仕立て上げるのか?
制作にあたって彼らが取った手法はこうだ。まず小説では逸楽の館を五度訪れるエピソードで構成されるところを三夜に刈り込み、主人公の江口は役者と歌手に分けて担当させる。彼の回想に現れる女性をめぐる想念は、ソプラノと四人の女声アンサンブル、そしてダンスにより表現する。演奏は特殊な編成の室内オーケストラ、さらに視覚情報としてプロジェクションなども活用し、多面的にこの小説を再構築して出来上がったのがオペラ「眠れる美女」なのだ。
《眠れる美女》舞台稽古より
様式的に限定されない音楽はときにBGMとして、ときにモノローグに重唱にと自在に展開される。ダンスは舞台上方に設えられたステージで映像的に示され、そして館への入退場の場面が演劇として示される、そこにジャンルの壁はない。越境的な作品として作られたこの”オペラ”は、オリジナルのプロダクションでは全篇が英語で語り歌われる作品だったが、日本初演にあたり江口と宿の女将の会話は日本語化され、歌も女声アンサンブルからは時折日本語も聴き取れるものとなった。言語的表現と視覚的表現が同時にオーヴァーラップされた舞台がこの多言語化されることで、情報量や作品世界のスケールは初演版よりも増した。さらに再演にあたって第三夜を中心に大きく手を入れた結果、日本初演は改訂版の趣を持つ、新たな作品へと生まれ変わりつつあるという。
こうした挑戦的な再構成により、小説が描いた”中高年の未だ枯れてはいない男性の、女性をめぐる想念”は多面的に再検討され、個人の内面の物語として閉じたものではなくなった。複数の表現を同居させた、あたかもキュビズム絵画を思わせるその立体的な構成は、内なるドラマへの多様な読みを刺激することだろう。
《眠れる美女》舞台稽古より


この公演は東京文化会館の開館55周年、そして日本ベルギー友好150周年を記念して上演される。東京文化会館はこれまでも節目となる年には新作の初演や知られざる作品の発掘など価値創造の試みを行ってきたが、今回の「眠れる美女」もそれらの試み同様に議論を呼ぶものとなるだろう。江口と宿の女将にはそれぞれ長塚京三と原田美枝子がキャスティングされ、ともにオペラ初出演を果たすことも話題となったオペラ「眠れる美女」は10日(土)、11日(日)の二回のみの上演だが、できうるならば繰返し触れてみたくなる、蠱惑的な世界が生まれようとしている。

取材・文:千葉さとし reported by Satoshi Chiba / photo: Naoko Nagasawa


オペラ「眠れる美女~House of the Sleeping Beauties~」
2016年12月10日(土)/11日(日) 15時
東京文化会館 大ホール

原作:川端康成
作曲:クリス・デフォート
台本:ギー・カシアス、クリス・デフォート、マリアンヌ・フォン・ケルホーフェン
ドラマトゥルク:マリアンヌ・フォン・ケルホーフェン
指揮:パトリック・ダヴァン
演出:ギー・カシアス
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ

キャスト
老人:オマール・エイブライム(バリトン)
女:カトリン・バルツ(ソプラノ)
老人:長塚京三(俳優)
館の女主人:原田美枝子(俳優)
眠れる美女:伊藤郁女(ダンサー)
眠れる美女たち:原千裕/林よう子/吉村恵/塩崎めぐみ(コーラス)

管弦楽:東京藝大シンフォニエッタ
美術:エンリコ・バニョーリ/アリエン・クレルコ
照明:エンリコ・バニョーリ
映像:アリエン・クレルコ
衣裳:ティム・ファン・シュテーンベルゲン
舞台監督:菅原多敢弘
共同制作:LOD(ベルギー)

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