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METライブビューイング、第7作のプッチーニ《マノン・レスコー》を観ました。アラーニャの歌うデ・グリュー役が素晴らしかったです!
METで3月5日に収録されたこの公演は、リチャード・エアの演出、METの首席指揮者であるファビオ・ルイージが指揮をしたニュー・プロダクションでした。
主役の二人はマノン役にクリスティーヌ・オポライス、デ・グリュー役がロベルト・アラーニャ。もともとデ・グリューに予定されていたテノール歌手ヨナス・カウフマンが1月も終わり近くになってキャンセルを発表したため、その時にMETで《道化師》に出演中だったアラーニャに急遽代役の要請が行ったそうです。アラーニャはこの役を10年前に一度勉強したことがあるだけで舞台で演じたことはありませんでしたが、果敢にもチャレンジを受けて立ち、約2週間で役を覚えて舞台に立ちました。
エアの演出は2年前にバーデン・バーデンで上演されたプロダクションです。物語を、もともとの18世紀ではなく、1940年代のドイツ支配下のフランスに設定したことによって、ロココの甘美な美術や衣裳によってベールを被せられていた欲望に満ちた人間関係の残酷さをあらわにしています。特に第四幕がアメリカの砂漠の代わりに、豪華なお屋敷の窓や大階段が(まるで爆撃によって)廃墟となった場所でマノンが死んでいくのが印象的でした。
タイトル・ロールのオポライスは金髪でスタイル抜群の美女。第二幕ではまるでマリリン・モンローのようなセクシーなドレスを纏っています。声も良く、最後まで安定した歌唱でした。アラーニャはリリックな美声で、第一幕は恋のときめき、第二幕、第三幕は愛の苦悩を歌い上げ、終幕でもマノンを助けられない絶望を声と演技であますところなく表現しました。マノンへの愛情がひしひしと感じられたのが何より良かったです。
マノンの愛人ジェロントを歌ったシェラット、兄レスコーのカヴァレッティ他の脇役も巧みな演唱でした。
ルイージの指揮は繊細で情感細やか、しかし常に分析的な視点を忘れずにプッチーニの官能的な音楽世界を描いていました。
(文・井内美香)
(C)Ken Howard/Metropolitan Opera
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