オペラ・エクスプレス

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12月9日より全国順次公開!映画『新世紀、パリ・オペラ座』のステファン・リスナー総裁に、劇場が若返る秘策を聞いてみました!

Stephane Lissner (c) Elisa Haberer – Opera national de Paris




完成した映画をご覧になった感想をお聞かせください。
私がこの映画の完成版を観る際に一番気にしていたのは、ちゃんとオペラ座の全従業員が満遍なく映っているだろうかということと、彼らがこの映画を観て気に入ってくれるかという事でした。実際完成したものを見てみると、皆気に入ってポジティブにとらえてくれて、全従業員がハッピーだったので、自分も安心したしとても嬉しかったです。

オペラ座の<変革期>の舞台裏にカメラに入ることについては、マイナス要素は考えませんでしたか?
この話を引き受けるまでは正直悩みました。話をもらったときは、私がパリ・オペラ座の総監督に就任してまだ日が浅かったし、バンジャマン・ミルピエ(舞踊監督)も来たばかりだった。我々は、芸術的な方針や一般の観客に対する方針を決めているところだった…すべてが始まったばかりだったんだ!でも、ジャン=ステファヌ・ブロンという人間、そして彼の監督としての仕事ぶりを知って、考え直した。彼の過去のドキュメンタリー作品、 « Cleveland contre Wall Street(クリーブランド対ウォール・ストリート)» « L’experience Blocher (ブロシェールの経験))» を観たんだ。彼の持つヒューマニズム、眼差し、思いやりに完全に心を動かされました。

これまでもオペラ座の舞台裏を撮影した映画、ドキュメンタリーは数多くありますが、これがこれまでのものに比べフランスの興行収入において群を抜いているのはなぜだと思いますか?
この映画の成功は、観客らが登場人物らに感情移入できるところにあると思う。ジャン=ステファン・ブロンの眼差しは何よりとても人間らしい。新作のオペラ作品を創りあげる過程を、ふんだんな演出を施したり、ありきたりな方法を使って見せるのではなく、創作に取り組む人々を丹念に追ったのだ。オペラ座で働く様々な人々のポートレートを描きながら、彼はこのオペラ座という組織の一面を露わにすることに成功した。観客はそこに一つの完成された世界を見出すんだ!オペラ座には、ヒエラルキー、組織の働き方、集団としてのまとまり、また競い合いがあり、それらのいずれもが芸術に関するものと同時に政治的なものであるから、オペラ座は、“皆と同じように”一つの社会や、街、企業に例えることが出来る。
この作品は、ただパリ・オペラ座を題材にした映画というだけではなく、人々についてのドキュメンタリーなんだ!

オペラ座の総監督の仕事は誰でもなれるものではないと思います。この仕事の醍醐味は何なのでしょうか?
パリ・オペラ座の総裁という仕事は唯一無二です。
パリ・オペラ座は2つの会場を持ち、年間400もの公演を行う。これは1500人以上のスタッフのノウハウと優れた仕事により実現できているんだ。世界で最も美しい街のひとつで、好奇心旺盛な観客たちに向けて仕事をする…これ以上何も望むものはないよ!

「世界一のオペラ座」の質を維持していく上で、重要なことは何だと思われますか?また今後何が必要になっていくと思われますか?
我々のクオリティを保っているのは、技術、芸術、管理、すべての部門のノウハウだ。公演プログラムの編成も同じく重要だ。僕は、プログラムを立てるときは、あらゆる個人的な感情や外部からの情報を排して、作品自体、その音楽の質や音の美しさだけを考えなくてはならないと思う。さらに、編成は、演目うんぬんよりも、歌手やオーケストラの指揮者、演出家といったアーティストたちのために行わなくてはいけない。アーティストたちがまとまって一つの芸術プロジェクトに打ち込められるよう導くことこそが大切なんです。

本作が、日本で公開されることについての感想と、日本の観客に見てほしい点を教えてください。
私はミラノ・スカラ座に勤めていた際、10年間で2回、公演のために東京に来たことがあるので、いかに日本のお客様がオペラに関心を持ってくださっているかという事を非常に良く知っています。今回のこの映画はオペラ座の内部を映していて、舞台上のダンスや舞台だけではなく、それ以外の人のすべての日常がのぞけるものなので、非常に面白いものだと思いますし、日本のお客様には必ず興味を持ってもらえると思うので、とても嬉しく思っています。

バレエ団芸術監督バンジャマン・ミルピエと彼の退任をめぐって電話でやり取りをするシーンには驚きました。どのように撮影したのですか?また本作について、ミルピエと何か話しましたか?
ジャン・ステファン=ブロン監督は約2年間、撮影のためにオペラ座にいました。私のオフィスのすぐ横にずっといたり、オフィスに入ったり出たり、時に撮影したりってね。私の仕事中だったり、電話中だったり、どんな時でも自然に入ってきては撮影して、という感じだったのです。だから、この私が電話をしているシーンも、実際に撮影したのはこのシーンだけではなくて、役所の人と話しているシーンなんかもあります。このバンジャマンと電話でしゃべっているシーンも、たまたま電話しているときに監督が入ってきて撮影したもので、私はバンジャマンと元々辞任に関してやり取りしており、たまたま彼から折り返しの電話があった時だったんだ。たまたま辞任だって話してる時に監督が入ってきて撮ったものなので、まったくやらせとか演出とかは一切なしで、本当に自然に撮られたものなんです。
ちなみに今回撮影された中で「これは使わないでくれ」というようなシーンは一切ありません。
そして、本作についてバンジャマンと会話したかという件に関しては、この映画が出来てからバンジャマンと話してないので、シーンがどうこうとか、そういった話はしていないな。

本作では、音楽監督のフィリップ・ジョルダンの熱意に圧倒され、音楽を愛する彼の人間性がとても魅力的に映されていますが、リスナー総裁から見て彼はどんな人物ですか?
フィリップは非常に優れた指揮者であり、優れた人格者です。何故優れた指揮者であるかというと、彼は元々ピアニストで、お父上も有名な指揮者なので、そもそもそういう環境で育っているし、さらに若い頃は小さい劇場で働いたり、オペラも色々経験を積んでいて、私がシャトレ劇場で働いていた時の95年のワーグナーの「ニーベルングの指環」シリーズで彼はアシスタントとして働いていたり、とにかくいろんな実績がある。さらに非常に仕事に堅実に、まじめに取り組む人で、アーティストの知識、歌手の知識、音楽家たちの知識がものすごく深く、楽団員とも信頼関係を築けている。彼はオペラも良く知っているし、オーケストラにも認められているし、着任して約10年ですが、彼が着任してからいいことばかりで、本当に偉大な指揮者です。さらに人物としても、非常に規律正しくて手本になるような人で、彼はすごくレパートリーが広く、「モーゼとアロン」であったり、ヴェルディの「ドン・カルロス」であったり、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」であったりモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」であったりと、レパートリーがすごく広く、それが非常に素晴らしい。オーケストラとの関係においても、よく長年同じ人と組んでいると飽きられたりしますが、彼はそんなこともなく、楽団員も彼からはずっと学ぶことがあるというな気持ちで居てくれて、本当に固い信頼関係があるので、パリ・オペラ座の成功の一因は彼のおかげだと思います。

その後(映画で描かれているその後)のミハイルはどうしていますか?
映画の撮影後、ミハエルはオペラ・バスティーユで公演されるヴェルディの「リゴレット」でのチェプラーノ伯爵役とアルバン・ベルグの「ヴォツェック」の徒弟職人役の二つを獲得した。今後の彼のキャリアが楽しみだ。


リスナー総裁からの回答は以上でした。総裁のオペラと歌劇場の未来にかける情熱がほとばしるような回答の数々、素晴らしいです。

『新世紀、パリ・オペラ座』、オペラ・ファンにとってはとても嬉しい映画です。公開予定等は下記をご覧下さい。

「新世紀、パリ・オペラ座」
12月9日(土)Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ
公式HP:http://gaga.ne.jp/parisopera/

ステファン・リスナー パリ・オペラ座 総裁 Stéphane Lissner
1953年1月23日、フランス・パリ生まれ。
現代屈指の劇場支配人として知られる。パリでキャリアをスタートし、1983年にパリ1区にある劇場シャトレ座の管理者に就任、1988年からは同劇場の総裁を10年間務める傍ら、1993~95年にはパリ管弦楽団の総支配人も兼任。1998~2006年に掛けては、エクス・アン・プロヴァンス音楽祭の総監督を務め、若い才能の育成を目的としたヨーロッパ音楽アカデミーを創設。それからも2005~14年にミラノ・スカラ座で史上初のイタリア人ではない芸術監督を、2005~13年にはオーストリアのウィーン芸術週間の音楽監督を務め、その実力が評価され2014年よりパリ・オペラ座総裁に就任している。

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