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ワーグナー音楽の多面的な魅力を聴く―「わ」の会コンサートvol.5

今年も「わ」の会がやってきた。昨年の「神々の黄昏」抜粋に続き、今年は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」と「ジークフリート」という2傑作からの抜粋となる。この2作の並び、ワーグナー・ファンならニヤリとするところだろう。ワーグナーは「ジークフリート」の作曲を何度か中断、その間に完成させた作品の一つが「マイスタージンガー」だからだ。同時期に完成されながら全く装いを異にする2作を、「わ」の会はどう表現するか。本公演のリハーサルレポートはこちら

「マイスタージンガー」は第3幕からの抜粋。4場の5重唱、5場の歌合戦がとりわけ有名なこの幕においてやや影が薄くなりがちな前半の魅力を是非、という狙いのようだが、改めて聴くと何と風刺が効いて面白いことか!第2場のザックス(大塚博章)とヴァルター(二塚直紀)の会話、第3場のベックメッサー(大沼徹)とザックスの駆け引きと、登場人物3人の性格がはっきり描き分けられている。まずは二塚の真摯な美声に酔い、大沼の妬み滲む演技に笑わせられるという流れだ。両者をどっしりと支える大塚も安定感抜群。

大塚博章(ザックス)、大沼徹(ベックメッサー)

大塚博章(ザックス)、大沼徹(ベックメッサー)

後半は「ジークフリート」第3幕第1場にはじまる。木下志寿子のピアノに指揮の城谷正博も連弾で加わり、「指環」の膨大な動機群が凝縮された壮大な前奏曲を奏で始める(この編曲がまたピアノ1台とは思えないほど凄味に富み素晴らしいのだ)。そして舞台にさすらい人(友清崇)が現れ、智の女神エルダを喚び起こす。その強靭な呼び掛けに応じてしずしずと現れるエルダ(金子美香)。未来を見通す女神ならではの深い思索と鋭さを滲ませる名唱であった。„Weißt du, was Wotan will?“の激烈な叩き付け、長いパウゼに続き、さすらい人は神々と世界の行く末を歌いつつ再びエルダを地底に還す。
その後ジークフリートがさすらい人(つまりは彼の父ヴォータンだ)と対決して「指環」の“世代交代”が成される第2場に続き、ジークフリートとブリュンヒルデが出会い愛に目覚める第3場が今宵演奏されるはずだったが—残念ながら表題役の片寄純也の体調不良による降板のため、曲目変更を余儀なくされた。しかしその変更の結果が「黄昏」の大詰め、「ブリュンヒルデの自己犠牲」だというのだから驚嘆である。殆ど準備期間がないなか、「自己犠牲」を代替に用意できるというのも、「わ」の会が真のワーグナーの手練れであることを暗に示しているではないか。池田香織が歌う「自己犠牲」は昨年も披露されたが、その美声はステージを突き抜け、益々強靭さを誇る。彼女は舞台ではなく客席から現れ、歌いながら舞台へと登って行ったが、指向性など関係なくホールに響き渡る歌には畏れ入るばかりだ。

大沼徹(ベックメッサー)、二塚直紀(ヴァルター)、大塚博章(ザックス)、池田香織(ブリュンヒルデ)、友清崇(さすらい人)、金子美香(エルダ)

急な曲目変更にも拘らず、例年と並び燃焼度の高い舞台で魅せた「わ」の会。メンバーが出演する演奏会として、今月21日には宮崎県えびの市での「ジークフリート」抜粋上演(前半は『こうもり』)、来年1月の新交響楽団「トリスタンとイゾルデ」、3月のびわ湖ホール「ジークフリート」など、国内の重要なワーグナー公演が多数控えている。これらの公演でのメンバーの活躍にも期待するとともに、次回の「わ」の会の企画も心待ちにしたいところだ。

写真:平井 洋 Photos by Yo Hirai
文:平岡 拓也 
Reported by Takuya Hiraoka

【公演データ】
2018/9/6
「わ」の会コンサートvol.5 Erwachen:覚醒
@調布市文化会館たづくり くすのきホール

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕より
      第1場「迷いのモノローグ」、第2場、第3

      楽劇「ジークフリート」第3幕より 第1
      楽劇「神々の黄昏」第3幕より 第3

ザックス:大塚博章(バス)
ベックメッサー:大沼徹(バリトン)
ヴァルター:二塚直紀(テノール)
さすらい人:友清崇(バリトン)エルダ:金子美香(メゾ・ソプラノ)
ブリュンヒルデ:池田香織(メゾ・ソプラノ)
ピアノ:木下志寿子
指揮:城谷正博
字幕・解説:吉田真

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