オペラ・エクスプレス

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救済なるか⁉7月10日から全国で上映される、METライブビューイング《さまよえるオランダ人》新演出。日本人として初登場の藤村実穂子にも注目。

救済なるか⁉7月10日から全国で上映される、METライブビューイング《さまよえるオランダ人》新演出。日本人として初登場の藤村実穂子にも注目。

新型コロナウイルスの感染拡大により、年末までの全ての上演を取りやめているメトロポリタン歌劇場から、公演中止前最後のライブビューイング収録となった上演作が届く。演目はワーグナーの出世作「さまよえるオランダ人」だ。当代最高のワーグナー歌手たちに加え、ライブビューイングに初めて日本人が登場する。

「さまよえるオランダ人」は、上演時間が2時間程度と、ワーグナー作品の中でもかなり短く観やすい作品だと言える。音楽も話の筋もわかりやすく、なんとなくワーグナー作品を「長くて難しい」と思っている人にもうってつけだ。MET初登場となる藤村が「R.ワーグナーが一生のテーマにした“女性の自己犠牲”、女性が命を絶ってでも男性に対して愛を捧げるということが、この作品のテーマです」METライブビューイングコメント動画より)と語るように、自らを犠牲にオランダ人を呪いから救うゼンタの心と、幕切れの後奏の美しさは筆舌に尽くしがたい。

本公演はカナダ出身のジラールによる新演出だ。映画監督としての顔も持つジラールだが、MET「パルシファル」でも演出を務めるなどオペラ演出家としても高く評価されており、この公演はライブビューイング上映もされている。比較的簡素な舞台作りが特徴的な演出家だが、本作では、まるで本物の幽霊船のようなセットを用意させて圧倒的な臨場感を与えたと思えば、吊るされたロープを用いた抽象的な表現も取り入れるなど、ジラールの緻密で繊細な世界観を垣間見ることができる。

指揮を執るのは、クラシック音楽界を牽引するカリスマのひとり、ゲルギエフ。円熟の域に達した名指揮者が、ワーグナーの描いた愛の情景を繊細に紡ぎだす。

題名役のニキティンは同役を世界中で演じている。≪ゼンタ役≫のカンペは今回がメトロポリタンデビュー。すでにバイロイト音楽祭にもデビューを果たしており、ワーグナーを中心に華々しいキャリアを積んでいる。≪ダーラント役≫のゼーリヒも、同役でバイロイトに立つなど、当代屈指のバス歌手だ。≪エリック役≫スコロホドフはマリインスキー劇場の生え抜き。いわばゲルギエフの秘蔵っ子だ。リリカルな声で、ゼンタに想いを寄せる青年を演じる。≪船の舵手役≫のポルティッヨは、地元アメリカのベルカントテノール。MET「セヴィリャの理髪師」で主演を演じる歌手がこのような脇役を固める、これだけでもMETの層の厚さとレベルの高さを伺い知ることができる。

また、日本人で初めてMETライブビューイングへ登場する、メゾソプラノの藤村実穂子にも注目だ。メトロポリタン歌劇場初登場でもあるが、世界中で認められてきた実力と表現力は、まさしく日本人離れしている。映画館の充実した音響設備で、藤村の豊かな歌声を堪能されたい。

鑑賞に当たっては、各映画館ごとの新型コロナ感染予防対策に従って、ソーシャルディスタンスを保って鑑賞されたい。METライブビューイングホームページではマスクの着用を呼びかけている他、各劇場のリンクもまとめているので、来場の際にはチェックを忘れずに。

この上映が、コロナ自粛で疲弊した現代人にとっての≪救済≫となるか。日本のオペラ上演再開にはもう少し時間がかかりそうだが、METライブビューイング「さまよえるオランダ人」は、その空白を埋めて余りあるだろう。この機会に、「オペラは生観劇派」の方も、映画館に足を運んでみてはいかがだろうか。


ワーグナー《さまよえるオランダ人》

Der Fliegende Holländer - Wagner

上映期間:2020年710日(金)~716日(木)
※東劇のみ7/23(木)までの2週上映

作品や上映についての詳細は、以下の公式サイトからご確認ください。
https://www.shochiku.co.jp/met/program/2090/

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