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コンサート日記― 2020年10月29日木曜日 四谷区民ホール  上江隼人 バリトンリサイタル2020 ~イタリア巨匠ヴェルディの魅力~

(令和2年度(第75回)文化庁芸術祭参加公演。

父としての吐露、憤り。。
withコロナの今だからこそ響くヴェルディ・バリトンの名曲の数々。

どのように過ごしたらいいものか、どうすれば打ち勝つことができるのか。コロナ禍をいかに乗り切るかは、職業にかかわらずすべての人を不安の奥底へと追い込んだと言えるでしょう。

日本では少し落ち着いたような兆しも見られ、しかし再び急速な感染拡大が起こるようなことの無いよう、ジャンルを問わず音楽家たちは少しずつ新しいスタイルの演奏活動を再びスタートさせ始めるようになったこと。純粋に喜ばしく、またその演奏に出会えることそれ自体が尊いご縁の導きによるものだ、そう思わずにはいられないのです。

よりイタリアの作品の上演機会も多い藤原歌劇団へ移って、日本ではなかなか上演される機会の少ない作品などへもかねてから意欲的に出演され、まさにこれからというとき、上江隼人さんは2020年2月を迎えられました。ノーブルな声にすっと感情が乗る。そんな彼は今もっとも実力派のヴェルディ・バリトンの一人といってよいでしょう。そんな上江さんの久しぶりのリサイタルはオールヴェルディプログラムという意欲的にして贅沢なものでした。

ヴェルディのバリトンの名曲の数々。そもそもどこか大切な人を想い、そして想えばこそ、どうしても許せないものへの怒り、素直に真正面から祝福できなかったりする意地といったことが巧みに歌われている面はないでしょうか。大きな器で時に祈り、復讐の決意に燃え、自分の命を賭してでも大切なものを守ろうとする。そんな「父性」と、その父性があるが故の吐露。これは、おそらく、自身も父であり、イタリアを政治家としても導いた「イタリアの父」のような人であったジュゼッペ・ヴェルディ自身が符合し、投影されている役柄。そうしたものが多いように思えるのです。

2月から今までの音楽家生活は一変し、自身も迷い、不安の中で家族を支えなければならない「父・上江隼人」のヴェルディのバリトンの名曲の数々。語弊を恐れずに言えば「withコロナ」のこの段階だからこそ出会えた名唱に触れることができました。

1階席の前方はすべてブロックされ、後部、そして二階の席も十分な間隔を設けられた客席で聴いたヴェルディの名曲の数々。やはりステージの上で観客を前に歌える場所へ戻ってこられたことをかみしめるかのようであり、目で見ることもつかんで握りつぶすこともできない新型コロナウイルスの撃退を真摯に願うかのような強烈な鋭さなどさえも垣間見ることができたのです。

筆者にとって、プログラムに仮面舞踏会の3幕、レナートのアリア「お前こそ魂を汚すもの」が入っているだけで大満足だし、アンコールでは椿姫の「プロヴァンス」も聴けたのだから、それだけでもう十分満足なのだけれども、それ以上に配信や音源の再生ではなく、ライブで名曲に触れ、名唱に触れられる喜びはどんなものにも代えがたい喜びを与えてくれるものだ。改めてそう感じたものです。

鬱々とした日が続くものの、それでもこの歌に出会えてよかった。いまこの歌を聴けて良かった。そんなコンサートでした。

上江隼人 バリトンリサイタル2020
【​イタリアの巨匠 ヴェルディの魅力】
2020年10月29日(木)19時
四谷区民ホール

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