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【ゲネプロレポート】NISSAY OPERA 2020 特別編 オペラ『ルチア~あるいはある 花嫁の悲劇~』ドニゼッティのベルカント・オペラ最高傑作 全1幕90分間で 凝縮された“ルチア”

【ゲネプロレポート】NISSAY OPERA 2020 特別編 オペラ『ルチア~あるいはある 花嫁の悲劇~』ドニゼッティのベルカント・オペラ最高傑作 全1幕90分間で 凝縮された“ルチア”

NISSAY OPERA 2020 特別編 オペラ『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』が、2020年11月14日(土)、15日(日)に東京・日生劇場で開演される。ガエターノ・ドニゼッティ作曲の『ランメルモールのルチア』は、血塗られた花嫁ルチアの愛と狂気のストーリー。初演時から現代まで、世界中の劇場で上演され、熱狂を巻き起こしてきた作品だ。この秋、日生劇場では原作通りの『ルチア』の上演が予定されていたのだが、感染症対策に伴い、全1幕90分間に凝縮された特別編として届けられることとなった。演出家・田尾下哲が手がけるニューノーマル時代ならではの新しい表現に胸が高鳴る。

オペラ・エクスプレスでは、初日に先立ち11月7日(土)に実施されたゲネプロの様子をレポート。この日のキャストは以下の通り。

ルチア:森谷真理
エドガルド:吉田連
エンリーコ:加耒徹
ライモンド:妻屋秀和
アルトゥーロ:伊藤達人
アリーサ:藤井麻美
ノルマンノ:布施雅也
泉の亡霊(助演):田代真奈美

豪華キャストと新演出によって鮮明に描き直される、ドニゼッティの音楽美

ソーシャルディスタンスの確保など、舞台製作においてさまざまな困難が生じる状況の中、特別編としてすべてのオペラファンの記憶に残るであろう『ルチア』が日生劇場に誕生した。ストーリーの大筋は変わらないが、舞台にかかわるすべてのキャスト・スタッフにとって、大きな挑戦であることに違いない。

“ルチアの一人芝居”という予告がなされていた本公演、やはり興味を惹かれずにはいられない。幕が上がると、休憩なしの90分間、舞台セットの中で歌声を披露するのはルチアだけ。その他のキャストは、舞台両脇に置かれた黒紗幕パネル裏でお互いに距離を保ったまま各々の役を演じ切るという、初めて目の当たりにする演出にいま一度驚かされる。

『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』より 森谷真理
(写真:長澤直子)

凝縮された90分間、おなじみのシーンやアリアが割愛されてしまい、物足りないと感じるオペラファンもいるのでは?と想像するところだが…、日本のオペラ界を代表する豪華キャスト陣と舞台演出の成果により、その点は大変巧みにまとめ上げられていたと思う。

例えば、冒頭のアリア〈あたりは沈黙に閉ざされ〉では、追い詰められた自身の境遇を悲観しつつも、恋人エドガルドへ寄せるルチアの熱い想い、そしてまだ残る彼女のあどけなさを歌声と表情でフルに表現し、見事な歌いっぷりで会場を虜にする森谷真理。一方、恋人エドガルドを演じた吉田連やエンリーコ役の加耒徹の精悍な歌声は、ルチアとの対話や関係性を鮮やかに描き、演出と相まってときには怒涛の勢いでドラマを展開する。歌い手同士の距離をすっかり忘れてしまうほどだ。こうした心に迫るドラマを彩るのは、登場人物の心情を丹念に表現する歌い手たちの実力、そして演出のこだわりの数々だろう。

『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』より 左:森谷真理/右:田代真奈美
(写真:長澤直子)

後半は、エンリーコの策によってエドガルドとの絆が砕かれ、動揺を隠せないルチア。その表情と声色は、とても痛々しい。他の女性に目移りしてしまった恋人に絶望し、許嫁との結婚の誓約書に署名してしまうのだが、間もなくエドガルドが駆け付け、すべては誤解だったということ、そして恋人を裏切ってしまった状況に堪らなくなり、部屋から飛び出すのだった。

この作品、なんと言っても注目シーンは、クライマックス「狂乱の場」。花婿アルトゥーロを短剣で刺し、血塗られたドレスを纏った衝撃的なシーンとドニゼッティの美しい音楽が組み合わさった最大の見どころだ。この日、狂気と同時に、ルチアの優しさや美しさも表現した森谷の緻密な芝居には、まばたきが惜しいと思うほどだった。

一人芝居によって高められる「音楽への没入感」

『ランメルモールのルチア』の魅力は先述の通りだが、この作品が現代に至るまで多くのファンに愛されてきた理由は、登場人物の数だけ存在する苦悩のドラマではないだろうか。領地の権力を憂慮するエンリーコ、敵対関係にあるルチアに永遠の愛を誓うエドガルドの決意など、さまざまな感情が交差する。それらの想いと苦悩が、ルチアのプレッシャーを高め、胸が締め付けられるような感覚を幾度となく呼び起こしている。

本公演では、ルチアを取り巻く登場人物たちが姿を現さないことにより、音楽への没入感を高め、新たな『ランメルモールのルチア』の提示を試みている。そういった意味で、やはり本公演は特別な体験だといえよう。紡がれる言葉の一つ一つに感情が行き届き、90分間の舞台では披露されなかったはずのシーンやそれとの繋がりまで感じることができた。

『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』より 森谷真理
(写真:長澤直子)

日生劇場芸術参与を務める栗國淳は、今回の翻案上演について、「けっして消極的な選択ではない」と語る。それを「オペラハウスではなく、〈劇場〉としてオペラを上演し続けてきた日生劇場だからこそ選ぶことのできる、挑戦の道」ととらえ、コロナ禍でのライブオペラの楽しみ方を示している。ニューノーマルな時代で出逢う、ドニゼッティのベルカント・オペラの最高傑作、ひとりでも多くの聴衆に届いてほしい。

取材・文:江口莉永


NISSAY OPERA 2020 特別編オペラ『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』
全1幕 原語[イタリア語]上演 日本語字幕付


2020年11月14日(土)・15日(日)各14:00開演 (13:30開場)
日生劇場
上演時間:約90分(休憩なし)

原作:ガエターノ・ドニゼッティ作曲 オペラ『ランメルモールのルチア』

指揮:柴田 真郁
演出・翻案:田尾下 哲

管弦楽:読売日本交響楽団

出演:11月14日(土)/11月15日(日)
ルチア:高橋 維/森谷 真理
エドガルド:宮里 直樹/吉田 連
エンリーコ: 大沼 徹/加耒 徹
ライモンド:金子 慧一/妻屋 秀和
アルトゥーロ:髙畠 伸吾/伊藤 達人
アリーサ:与田 朝子/藤井 麻美
ノルマンノ:布施 雅也(両日)
泉の亡霊(助演):田代 真奈美(両日)

 <スタッフ>
美術:松生 紘子
照明:稲葉 直人(A.S.G)
衣裳:萩野 緑
演出助手:平戸 麻衣
舞台監督:山田 ゆか(ザ・スタッフ)
副指揮:諸遊 耕史、鈴木 恵里奈、小松 拓人
コレペティトゥア:平塚 洋子、経種 美和子、矢崎 貴子

主催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
協賛:日本生命保険相互会社

問合せ:日生劇場 03-3503-3111(10:00~18:00)
公式サイト:https://www.nissaytheatre.or.jp/schedule/lucia2020/

<Streaming+配信>
配信公演:2020年11月14日(土)・15日(日)各14:00開演
アーカイブ配信期間:2020年11月28日(土)14時~12月6日(日)
視聴料金:各 2,000 円(税込) システム利用料別(220 円)
申込み:https://eplus.jp/sf/detail/0236130002


※やむを得ない事情により、出演者等が変更となる場合がございます。上演についての詳細は、予め公式サイトでご確認ください。

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