オペラ・エクスプレス

The opera of today from Tokyo, the hottest opera city in the world

中世ファンタジーの世界をバロックオペラで楽しむ!―鈴木優人 プロデュースオペラ Vol.2 歌劇「リナルド」

中世ファンタジーの世界をバロックオペラで楽しむ!―鈴木優人 プロデュースオペラ Vol.2 歌劇「リナルド」

日本を代表するバロック・オーケストラとして1990年に発足し、以来、国内外での活動が好評を博し数々の賞に輝いたバッハ・コレギウム・ジャパン。指揮者、チェンバロ奏者、オルガン奏者として活躍する鈴木優人のプロデュースオペラシリーズの第2回公演が、2020年11月3日に東京オペラシティにて開催され、終演後は11月13日までオンラインにて配信されました。

演目は、生誕335年を迎えたヘンデル作曲の「リナルド」。聖地エルサレムに侵攻した十字軍の活躍を描いた本作は、1711年に発表され、初演の地となったロンドンでのヘンデルの名声を確かなものにしたバロック・オペラの傑作です。

今回の公演では新型コロナウイルスの影響で海外からの招聘キャストがすべてキャンセルとなり、ALL日本人キャストに変更。日本人歌手の実力が発揮される舞台となりました。

RPGゲーム風のユニークな舞台演出

演奏が始まってすぐに目を引いたのが、舞台中央でゲームに興じるリナルド(藤木大地・カウンターテナー)の姿です。現代の文化系の若者のような衣装に身を包み、山積みのゲームや人形に囲まれてコントローラーを握り、目を輝かせています。

リナルド:藤木大地

今回の舞台では、主人公のリナルドがRPG(ロールプレイングゲーム)のプレーヤーのように描かれており、ゲームで遊んだことのある人には馴染みのある演出が随所に散りばめられています。そもそもRPGの物語設定は魔法やドラゴンが登場するファンタジックなものが多く、こうして見ると「リナルド」と通じる世界観を持っているのだと気づかされました。

普段、バロック・オペラを聴かない人でも、このように工夫された舞台なら、敷居の高さを感じずに足を運べるかもしれません。

魅力あふれるキャラクターたち

キャストの招聘中止が発表されたのは、公演まで2ヶ月を切った9月4日。しかし、急きょ役に就いた日本人歌手を含め、演奏陣はその実力を余すことなく発揮しており、聴きごたえ充分な公演となりました。

リナルド役の藤木大地は繊細な表現と憂いを含んだ芯の通った歌声が魅力的です。同じくカウンターテナーのゴッフレード(久保法之)は柔らかく豊潤な声色で、古楽器オーケストラのサウンドにしなやかに沿う美しさを持っています。
またエウスタツィオ(青木洋也・カウンターテナー)のピュアな歌声は、3幕のアリア「今日、シオンの丘に」で特に堪能できました。

かわるがわる届く3人のカウンターテナーの声色は、それぞれが違った特長を持っており、違いを味わうのもこのオペラの楽しみの一つです。

リナルド:藤木大地(左)
ゴッフレード:久保法之(中央)
エウスタツィオ:青木洋也(右)

アルミレーナ(森麻季・ソプラノ)の透き通るような歌声と情緒あふれる表現は素晴らしく、名アリア「涙の流れるままに」ではひときわ魅力が際立っています。またリナルドとの二重唱では、柔らかく広がるカウンターテナーの歌声と、ソプラノの繊細な歌声のアンサンブルが聴き惚れる美しさでした。

アルミレーナ:森麻季

敵役のアルガンテ(大西宇宙・バリトン)は甘く艶やかな声色で、pでの演奏の囁くような表現が印象的。また魔女のアルミーダ(中江早希・ソプラノ)は強さと弱さをあわせ持つ役作りが魅力的で、ひらめくような高音が会場に凛と鳴り響いていました。

アルガンテ:大西宇宙(左)
指揮、チェンバロ:鈴木優人(中央)
アルミーダ:中江早希(右)

ほかにも魔法使い(波多野睦美・アルト)の威厳のある佇まいと端正な演奏、使者(谷口洋介・テノール)のはつらつとした演技や、セイレーン(松井亜希、澤江衣里・ソプラノ)など、どのキャラクターも確かな実力と個性を兼ねそなえた、存在感のあるものでした。

生き生きとよみがえるバロックのサウンド

鈴木優人(指揮、チェンバロ)率いるバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏は古楽独特のアンティーク家具を思わせるような響きが美しく、生き生きとした演奏は観客をバロックの世界にいざないます。

リコーダー、オーボエやファゴット、ヴァイオリンのソロでは卓越した技術を聴くことができ、またリュートの神秘的な音色も、オーケストラの響きに彩りを添えていました。

また2幕ラストのアリア「私は戦いを挑み」ではアルミーダの怒りに満ちた歌声と共に奏されるチェンバロの大ソロが素晴らしく、熱量の高いひとときの後は観客の拍手もひときわ大きく感じられました。

クラシック業界も大きな影響を受けた2020年でしたが、演奏家をはじめ舞台を作り上げるクリエーターたちの情熱やポジティブさが、観客にもエネルギーを与えてくれるように思います。音楽の力を改めて実感した公演でした。

取材・文:オペラ・エクスプレス編集部
写真:長澤直子

鈴木優人プロデュース/BCJオペラシリーズ Vol.2
ヘンデル 歌劇 リナルド(セミ・ステージ形式)

2020年 11月3日(火・祝)16:00
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

指揮・チェンバロ:鈴木優人

リナルド:藤木大地(カウンターテナー)
アルミレーナ:森麻季(ソプラノ)
アルミーダ:中江早希(ソプラノ)
ゴッフレード:久保法之(カウンターテナー)
エウスタツィオ:青木洋也(カウンターテナー)
魔法使い:波多野睦美(アルト)
アルガンテ:大西宇宙(バリトン)
ヘラルド:谷口洋介(テノール)
セイレーン(人魚たち):松井亜希・澤江衣里(ソプラノ)

管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

演出:砂川真緒
ドラマトゥルク:菅尾友

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

CAPTCHA


COMMENT ON FACEBOOK

Return Top