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◆これまでの集大成のリサイタルを山田和樹さんが指揮してくれるという夢が実現
Q: 10月11日(水)に東京オペラシティ コンサートホールで開催されるリサイタルは、西村さんのこれまでの集大成と注目されています。山田和樹さん指揮の日本フィルハーモニー交響楽団が演奏するということも話題になっていますが、これまでも山田さんとの共演は多いですね?
A:山田さんと初めて共演したのはアンサンブル金沢、そしてスイス・ロマンド管弦楽団とのメンデルスゾーン『讃歌』に呼んでくださった時でした。2014年のことです。そして翌年、彼が初めてオペラを振った仙台フィルとの演奏会形式の『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』に僕を指名してくださったんです。ヤマカズさんとは歳も近く、色々話をするようになりました。
Q:共演していて、マエストロとのフィーリングはいかがですか?
A:正直に言うと、初めて共演した時にはそれほど歌いやすく感じなかったんです。ところが『ラ・トラヴィアータ』で再会して彼の指揮で歌ったら、すごく歌いやすい。何が違うのかな?と思う位。歌手という生き物の生態が解って来たのか(笑)、歌に対して音楽がどんどん変わっていく。それをお会いするたびに感じます。
Q:進化しているという感じなんでしょうか?
A:本当にすごいんです。それで僕びっくりしたのが、仙台の『ラ・トラヴィアータ』の時なんですが、だいたい地方を回ると共演者同士で食事に行くことが多いんです。その時も仲が良くて話せる仲間たちだったから、彼にも「ヤマカズさん行きましょうよ」って声をかけました。でも「ああ、今度行こう。今はちょっと、ごめんなさい。」って。多分、彼はずっと勉強していたんです。四日間の稽古だったんですけれどもどこにも顔を出さないで。なぜなら、毎日、前の日の稽古を踏まえての新しい提案が出て来るんです。次の日も、次の日も、本番の日までずっと。ああ、この人すごいな、こういう勉強熱心な人が一流なんだ、と思いました。そして彼が、これからオペラを振りたいんだ、と言うのを聞いてじゃあ今がチャンスなんじゃないかって。彼が振ってくれるという夢のようなことが実現しました。
Q:マエストロも西村さんの胸を借りてイタリア・オペラに進出というお気持ちがあるのかも知れないですね?
A:彼は本当に「色々教えてね。」なんて言うんですよ。あながちそれも彼の本心なのかも、って勝手に思ったりして。僕がこだわりを持って勉強し、歌って来たイタリア・オペラと、彼がこれからやっていく音楽。やはり彼は天才的な感覚を持っているので、その彼とお互い刺激し合えたらなと思います。
◆思い入れの強い曲・思い出深い曲を並べてのリサイタル
Q:リサイタル曲目の多くはイタリア・オペラですね。
A:そうですね。今回の曲目は僕がイタリアにいる間にコンクールやオーディションなどで歌って来た曲ばかりです。思い入れがあるし思い出もある、という曲を並べました。マスネ作曲の《ル・シッド》というフランス・オペラのアリアと、チャイコフスキー《エフゲニー・オネーギン》のレンスキーのアリアが一曲ずつ入りますが、それ以外はイタリア・オペラです。
Q:まずは《愛の妙薬》です。
A:ベルカントの王道でもあるアリア「人知れぬ涙」。歌うのにとても集中力が必要な曲です。ドニゼッティ全般に言える事ですが、旋律の美しさと音色、言葉に対して音をうまく紡いていくことが大切なのです。オーケストラにふわっと乗った感じで旋律をうまく聴かせられるかどうか。
Q:ドニゼッティは《ランメルモールのルチア》も歌われます。
A:エドガルドのアリアは僕がイタリアに行って一番最初に勉強した曲です。テノールはやはりアクート(高音)の怖さがあり、それがオペラ全体を通して足をひっぱるわけです。だからアクートに恐怖心を持たないためにこの曲をまず勉強しました。
Q:そういえば、テノール歌手とバスケット選手って似ている所がありますよね。ボールをリングに入れるように、必ず高音を出さなくてはいけないじゃないですか。
A:まさにおっしゃる通りですね。僕はオペラ歌手はスポーツ選手と同じアスリートだと思っています。高音を毎回同じポジションに持っていってリングに入れる。それもバスケット用語で言うとダンクというんですが、上からポンっと同じ位置に落とす。それが高音を出すときのいいポジションなんです。
Q:それでお客さんがわーっとなるのも同じですね(笑)。ところでマスネの《ル・シッド》はどいういう意味で入っているんですか?
A:この曲は、唯一、これから歌いたい、これからの僕を示した曲なんです。こういう役をやりたいという。
Q:こういう役をやりたい?
A:はい。これからは例えば若い青年だったり、そういうのではないものを示さなくてはいけなくなってくると思うんですね。ル・シッドは《仮面舞踏会》のリッカルドと似たような役で、皆を束ねる威厳のある存在です。これから例えば40代、50代になっていくうちにやらなくてはならない、未来を見据えた曲を一曲入れたのがこの《ル・シッド》です。《エフゲニー・オネーギン》のレンスキーも今後やってみたい役の一つですね。
Q:《ル・シッド》は昔から素晴らしいテノールがたくさん歌っている役ですね。《ラ・ボエーム》はどうですか?
A:《ラ・ボエーム》は演じていて一番楽しい役です。第一幕はアリアがありますから最初硬いんですけれども。これはテノールは全員硬いと思います(笑)。で、第二幕、第三幕、第四幕は楽しくてしょうがない(笑)。
➃へ続く
東京オペラシティ コンサートホール出演:西村悟
指揮:山田和樹
オーケストラ:日本フィルハーモニー交響楽団曲目
第1部
ロッシーニ:歌劇「セヴィリアの理髪師」より序曲 ≪オーケストラ演奏≫
ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」より“なんと彼女は美しい”
ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」より“人知れぬ涙”
ドニゼッティ:歌劇「ランメルモールのルチア」より “我が祖先の墓よ”第2部
ヴェルディ:歌劇「マクベス」より“父の手は”
歌劇「カルメン」より第3幕への間奏曲 ≪オーケストラ演奏≫
マスネ:歌劇「ル・シッド」より“おお、裁きの主、父なる神よ”
歌劇「エフゲニー・オネーギン」よりポロネーズ ≪オーケストラ演奏≫
歌劇「エフゲニー・オネーギン」より“青春は遠く過ぎ去り”
プッチーニ「マノン・レスコー」間奏曲 ≪オーケストラ演奏≫
プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」より“冷たき手”
プッチーニ:歌劇「トスカ」より“星は光りぬ”
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